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 星空が嫌いだ。  夜空に数多輝く星々。  それは多くの人々にとって魅力的なものなのだろう。  夏の夜長に天体観測と称し星空を見上げて感嘆の声を上げるのも、星をつないで星座を言い当てようとするのも、恋人たちの営みにおける雰囲気づくりに利用されるのも頷ける。時には願いをかけたりもする。  それほど星々は人の心を惹きつける。   それを否定する気はない。 僕自身星空は美しいものだと素直に感じるし、その様に目を輝かせたこともある。世間一般の感性に逆行したいわけでもない。  星空は美しい。  けれどそうであるからこそ、僕はその星空を嫌悪することになる。  その美しい輝きが暗い暗い心の奥底に沈めた記憶を照らし出し、曝け出してしまうから。  見たくもない情景が次々と呼び覚まされ溢れ出し、それに呼応するように僕の感情も溢れ出してしまうから。  そのたびに僕は目を逸らす。  溢れ出してくる情景を片っ端から打ち消し、洗い流し、再び心の奥底へと沈める。もう済んだことだと昔のことだと繰り返し呟きながら、もう二度と浮かび上がってきませんようにと祈りながら深く仄暗い心の奥底にその記憶を沈めるのだ。  それはまるで呪文を唱えるように、封印を施すように。  そんなことをもうずっと何度も続けている。
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