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集落の者達は、噂に聞く異国の英雄ジルカメスを一目見ようと集まって来た。
いきなり囲まれてジルカメスは苦笑いする。集落の人々は珍しさもあってか
ジルカメス達を急遽歓迎しようという事になった。
その夜、ゲルマンはジルカメスにこの世界の理を話した。ジルカメスも
ユーリウスから薄々は聞いていたのであまり驚きはしなかったが、
ユーリウスが背負っている「宿命」というものに深い衝撃を覚えた。
「あいつ、そんな姿は微塵も見せない。俺だったら胸が押しつぶされそうに
なるって言うのにな。惑星エーアデに運命を縛られながらそれを受け入れ
ようとしている。」
長老の幕舎に戻ったジルカメスは眠れないまま寝がえりを打つ。
「俺は何であいつに着いてきているのだろうか。あいつが来てほしいと
頼んだからか?。いや、それだけではない。何故か俺はあいつに着いて
行かなきゃならんような気がしていた。そう言えば・・・。あいつは俺が
生まれた理由を『惑星エーアデの意志』って言ってたな。知らず知らずの
うちに俺は惑星エーアデの定めた運命に従っていたのか。」
ジルカメスは幼き日々の事を思い出していた。母リマトゥから聞かされて
いた事を。そして自分が生きてきた今までの事を思い返してみた。
「だったら、俺も運命とやらを受け入れてやる。あいつに負けない
ようにな。」
久しぶりの我が家でゆっくり休んだユーリウスとオルケルタ夫妻。よほど
疲れていたせいか、ベッドに入ると一瞬で眠ってしまった。その為、朝は
すっきりと目が覚めた。
朝食を摂ると急いで準備をした。メルクーアの住民達を島に帰す為だ。
「お陰様で本当に助かった。ここまで来ればあとは大丈夫。」
再び女神メルクーアの造った道を辿り、島を目指す住民達。ユーリウス達も
島が見える海岸線まで見送りに来た。
「ところで・・・、ロナウハイド殿。一つ頼みたい事が・・・。」
「はあ?。」
ユーリウスは長老に連れられ、仲間たちの元から離れた。暫く話をして
いたと思ったが、頭を掻きながら慌てて戻って来た。
「・・・い、いえ・・・そ、それじゃあ・・・。」
ユーリウスは困った顔をしている。「ユーラント、急いで転送してくれ。」
という訳で、ユーリウス達はゲルマンが待つ集落へと再び戻った。
メルクーアの人々が無事に島へ戻ったという話をゲルマンに報告しようと
したが、ゲルマンはついさっき出かけたとの事で、集落の長老、テオドールに
報告した。
「ところで、さっきメルクーアの長老から何言われてたんだ?。」
ジルカメスが訊ねた。
「・・・ああ、その話か。」
ユーリウスは言いにくそうに話し始めた。
メルクーアの長老は、「どうしても頼みたい事がある。」と言って
ユーリウスを引き寄せた。実は、今回の一件で世話になった礼がしたいと
いうので話を聞いた。
「どうかね。ここは是非メルクーアに婿へ来るというのは。花嫁の世話なら
我々に任せてくれ。メルクーアはいい所だ。思い切ってこの地に骨を埋めて
みんかね。」
「い・・・い、いやあ。お、俺こう見えても婿にはもう行っているので
・・・。」
「またまたまた・・・。そう遠慮なされるな。それにその若さで嫁が居る
なんて年寄りをからかうもんじゃない。ささ、遠慮なされずに。」
「いや、ホントに嫁が居るんだってば・・・。」
「その手には乗りませんぞ。」
ユーリウスは事の成り行きを話し、信用してもらおうとも考えたが、
「気持ちだけ受け取って置く。」と言って去って来たという。その話を
聞いたジルカメスとフンヴォンはくすくす笑い始め、イシュナルは
苦笑いをしている。
肝心のオルケルタはなんとなく機嫌が悪い。
「ロナウハイド様には『隙』があるからです。私という『妻』が居ることを
キチンと示していただかないからそんな風に言われるんです。」
「ちょっと・・・そこまで言うかよ・・・。んもう、分かったから。機嫌
直してくれよ。」
「分かりました。じゃ、約束ですからね。」
流石のユーリウスもオルケルタには敵わないようだ。
夕方になってもゲルマンは戻ってこないようだ。気になったユーリウスは
頭の中に話し掛け、ユーラントと連絡を取ろうとした。
「・・・ゲルマンについてか・・・いや、それが、北に行ったまままだ連絡が
取れていないのだ。何か起きなければいいが・・・。」
「親父と連絡が取れないって・・・今までにもそんなことあったのか?。」
「ゲルマント連絡が取れなくなったのは一度だけ。二十数年前に
アトラテックで勇者探しをしたあの十年間だけだ。」
「そん時だけ、なのか・・・。気になるな。」
「どうする?。追いかけて行ってみるか?。」ジルカメスが訊ねる。
「ああ、今夜一晩考えてみるさ。まず、今夜もここに泊って行けよ。」
その夜、ユーリウスはベッドの中でオルケルタと話をしていた。
ユーリウスはオルケルタの髪の毛を掻き揚げたり撫でたりしながら訊ねる。
「・・・オルケルタ。俺の事がそんなに心配?。」
「当たり前です。ロナウハイド様の事は信じているけど、けど、分かって
いてても不安な時ってあるんです。」
「そうか・・・。」ユーリウスはオルケルタを腕枕したまま体を密着させる。
「ごめんな。心配かけて。・・・焼きもちを焼いてくれるのは嬉しい
けどさ。」
そう言って、オルケルタの唇にキスをした。二人は欲望に任せ、強く抱きしめ
合った。
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