サント・マルスと混沌の邪神ー ゴンドワシア編ー

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「なんだ、俺が誰だか分からないで話をしてたのか。道理でわからずやな 連中ばっかりだと思ったよ。まあ、正直言って無能な連中だな。」 元老院達は悔しがるが、言い返せずにいる。 「それよりも大変な事が起きそうだ。メセトハプラの軍隊がこの国を 目指して来るようだ。」 「何だって!!。けど何でメセトハプラが!?。」 「俺達が女の子達を密かに逃がしたからか?。」 「そんなの知るか!?。それにこうしてる場合じゃないじゃないか!!。」  メセトハプラ軍が襲ってくるかもしれない。しかし、このギザフの軍隊が かなう相手ではない。皆どうしたらいいのか悩んだが、何もないまま 時間だけが過ぎてゆく。そうしている間にも雨脚は強くなる。 「ここまで雨が強かったら、メセトハプラ軍は撤退したりしないのか?。」 ジルカメスが訊ねる。 母アルシノエを寝台に寝かせ、戻ってきたピラデルポス王子が答えた。 「ここより東。ルイナ川の近くにメセトハプラの砦がある。攻めてくると すればそこに待機しているんじゃないかと。話に聞くとそこのは屋根も ついていてかなり大きな砦なのだそうです。嵐が来たくらいで撤退 するとは思えません。」 「え・・・国内にある砦じゃないのか?。」 「ええ、砦自体はギザフ国内のあるのですか、そこの統治は全て メセトハプラのもので我々が立ち入ることはできないのです。」 「ギザフにあるのにギザフの人間が立ち入れないってどういう事だよ。」 「それが父のやり方なんです。ギザフを占領しない代わりに、あらゆる面で ギザフ国民の権利を奪い、法すらも変えてやりたい放題なんです。あの砦も いずれ難癖をつけてこの国を奪うつもりで建設したものではないかと皆 懸念しています。」 「待機か・・・。といっても攻めてくるのは時間の問題だしな。」 皆黙ってしまった。  雨脚はますます強くなってくる。 「まてよ・・・こうしてはいられない。・・・元老院達を呼んで ください。」 ピラデルポス王子は側近に命じた。しかし、集まってきた側近達は殆ど やる気がなさそうな態度を示す。 「ルイナ川流域に住んでいる住民を急いで非難させてください。早急に お願いします。」 「・・・どういう事だ?。」 「これだけの雨が降っているという事は、ルイナ川も氾濫を起こす可能性も あるという事。住民の被害を最小限に食い止める為、避難勧告を 発令します!!。」 しかし、元老院は緊迫した様子すら見せない。 「何を言い出すかと思えば・・・。あそこには先王が治水工事を行った アブドゥルダムがある。この程度の雨量位では・・・。」 「ダムが決壊するかもしれないんです!!。急いで・・・。お願い します。」 「・・・だから、王子は少し考え過ぎなのでは・・・?。」 「正確に言えば、『決壊させる』ですが。」 「何を馬鹿な事を!!。」「下らん。」 元老院達は、ピラデルポス王子の話を聞こうともしない。「おい。」 我慢できなくなったユーリウスが元老院達に言葉を掛けた。 「お前ら、舐めてんのか、この状況を・・・。メセトハプラが攻めて くるかもしれない、それにダムが決壊したら、流域は大洪水に なるんだろう。何のんきに構えてやがる。それとも、この ピラデルポス王子がよっぽど信用できないのか?。」 「ギザフ国民でない者に、何が解る!?。」 すると、王子の側にいたサラディンも口を開いた。 「用心に越したことはなかろう。それに先王が造られたダムを決壊 させてまでやり遂げなければならない現状があるからこそ、王子は そう言われたと私は思う。」 「サラディン・・・お前のいう事などだれも聞かぬ。」 そう言って元老院達は笑い飛ばした。 「王子、こんな腰抜けどもなど役に立ちません。我々だけで遂行する しかありません。御決断を。」 「分かった。住民への避難勧告はサラディンに任せる。避難が終了した 時点で行動を開始する。」 「分かりました。」 そう言うとユーリウス達の方を見た。 「王子の為、そしてギザフ国民の為、そなた達に協力して頂きたい。 見た通り元老院達は当てになどできん。守護神という者が居ない この国を守れる者は、私と王子の二人だけ、非力な我等に力を貸して 下さらぬか?。」 「・・・人助けか。人助けは嫌いじゃねえな。」ジルカメスが言った。 「おお、そうか。奇遇だなあ。俺も今それを考えていたところだ。」 ユーリウスも笑顔で答えた。「フンヴォンはどうする?。」 「俺は、ロナウハイドに着いて行く。以前から決めていたからな。」 「よし、そういう事だ。」 三人はお互いの握り拳を突き合わせた。  サラディンが避難勧告を開始した。一方、ピラデルポス王子と ユーリウス達はペガソーサに乗り、アブドゥルダムの上空から下を 見降ろす。 「ペガソーサ・・・このような天候の中我等に協力させてしまい申し訳 ありません。」 「気に止むな。私もそなたの心意気に同意しただけだ。」 やがて、東の空が明るくなってくる。と言ってもどんよりとした空である 事は変わりない。  サラディンが飛んできた。「避難が終了したのか。」 「ところで、それはいいとしてこのダムをどうやって決壊させるんだ?。」 「・・・ロナウハイドのアレを使えばいいだろう。あの・・・ドーンって なるやつ。」 「最初は俺もそれを考えていたが、ダムがこんなに大きいなんて 予想外だ。こいつを破壊するには、今あるだけでは絶対足りない。」 「何だと!!。」 「王子は何か考えていたのか?。」
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