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「落ちる落ちるー!」
空から落ちる一人と一匹。あたる風に歯茎はめくれ頬は往復ビンタされ隣のピグ太の脂肪ある胴体も波打っている。
「いやー死にたくない死にたくないッ!」
「おいお前羽生えてるだろ! それを使え!」
「え!? あ! そうか」
飛べー! と念じるとバサッと背中の羽が大きく広がりその場で空中停止した。今、私飛んでいる。
「た、助かった~」
「まったく」
スカートの裾に掴まる豚が呆れたように私を見る。
「お前ってドジ?」
「ド、ドジなんかじゃないわよ失礼ね」
「そういえば死にかけてる理由も飛び出した猫を助けてだっけ」
「だってあれは助けた猫の顔が不細工すぎて驚いたの! 本当に不細工で、思わず抱きかかえたまま凝視してたら道路にいるの忘れてて……あれ」
たしかに間抜けな理由だった。
ほらドジめ。
そう言われるかと思いきや、
「たしかに。すげー不細工だったなあの猫」
「ピグ太猫のこと知ってるの!?」
「俺も前に不細工猫を発見して後を追ったんだよ。そしたら奴がたら~と道路にはみ出たから危ねぇ! って助けたら後はお前と同じこのザマだ」
「そ、そうだったんだ」
あのブサ猫どれだけ人に助けられてるのよ。
ていうか。
「えーピグ太も私と同じ理由(死因?)でキューピッドやってるってこと? 似た者同士じゃん私たち。ピグ太ってお人好し?」
「なれなれしくすんな。それより任務だ」
「任務って縁結びだよね。カップル成立っていってもどうやって標的を見つけるの」
「俺は鼻が効く。これで恋の匂いを嗅ぎ付ける」
「恋って匂いあるんだ。ていうか豚なんかの嗅覚でわかるわけないでしょ」
「豚ナメんな! トリュフだって豚が見つけてるんだぞ!! つーか俺は豚の妖精だ」
くんくん、と鼻をひくつかせ探索を開始。
すると尻尾の先端のハートがピーンとアンテナのように立つ。
「発見! この真下から恋の気配」
「真下って……あ」
見下ろすと学校があった。
しかもこの学校、今日から自分が通うはずの高校だった。
「ここ私の高校じゃん!」
私が叫ぶとピグ太は豆のように小さな瞳を光らせる。
「なるほど。恋ある場所といえば多感な年頃の高校がベストってことか。ここなら獲物がわんさかいる。行くぞ」
「ちょちょちょ、ちょっと待って」
「ああん?」
「私が通う学校って言ってるじゃん。同じ中学から進学してる子もいるの。私がこんな格好で学校に現れたら次から恥ずかしくて学校通えないよ」
「神の爺さんも言ってただろ。誰もお前が倉本実桜だってわかんねーよ」
「そうだけど」
赤の他人ならこの際いい。
ただ、私にはどうしてもこの姿を見られたくない相手がいる。
あの人だけには。
「なんだモジモジして。見られたくない相手でもいるのか」
察しの良い相方に私は顔を赤らめ話す。
「す、好きな先輩がいるのよ。佐島錦先輩っていって、片想いなんだけど。いくら正体が私だってわからなくても、先輩には恥ずかしくてこんな姿見られたくない」
中学生の頃から憧れていた錦先輩。
弓道部のエースで袴が似合う和風男子。先輩が卒業する時私は告白出来なくて、高校生になったら告白しようと彼を追ってここを選んだ。絶賛片想い中なのだ。
「お前の恋路とか興味ねー。さっさといくぞ」
「え」
私が話し終わる頃にはピグ太は裾に掴まる前足を離し下に落下していった。
「ちょ、あんた落ちる落ちる!」
飛行して追いかけるも凄い速さで垂直落下する子豚。
もうすぐ地面という地点で彼の尻尾がバネのように伸び地面に着くと大きく 二、三回跳ね見事着地した。
「体操選手かっての」
思わず十点と書かれた札を挙げたくなった。
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