プロローグ

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プロローグ

 私は悔しくて悔しくて悔しくて、俯いて帰路についていた。  気を抜くと泣いてしまいそうで、早足で歩く。  人前で泣けなくなったら、大人。そんな言葉を思い出す。何かの本で読んだような、ドラマで見たような。  人前で泣けるわけがない。泣きたくもないから、この言葉には全く共感できなかったことも思い出した。両親も、弟も、心配してくれる。普通の、温かい家族だった。私は心配をかけたくなくて、特に家族にだけは涙を見せないように気を遣ってきた。  心配をかけたくなくて、ずっと、頑張って来たんだ。学校でも成績は出来るだけ上位。悪くても中の上と言った所。  浪人も、留年もしないように。  不器用ながらに、一人で必死に頑張って来た。  いつも、何かに急かされるように生きて来た。「普通」の時の流れに乗ることが出来るように。「普通」から外れてしまわないように。  わかっている。こんなもの、ただのプライドだ。  弟の前では、しっかり者のお姉ちゃんでいたかった。  両親の前で、少しでも出来の良い娘でいたかった。  嫌われないように、失望されないように。臆病なだけだった。  ほとんど、勉強だけをしてきたような日々だった。これと言って好きなものも趣味もなく、しいて言えば勉強で好きな教科は国語だった。  不器用な私は、時間の使い方が上手くなくて、趣味の時間を持つことが出来なかった。国語科だけは、その題材を読み、楽しむことが出来た。  多分、私は読書が好きなのだろう。教科書を読むのも、参考書を読むのも、活字を読むことが苦ではない。ただ、勉強以外で小説などの本を読む時間を作れるほど、余裕は無かった。  思えば、いつも怯えて、何かに急かされるように生きていた。  いつからだろう、早足で歩くことが癖になっていたのは。
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