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その日の夜。帰宅して、夕食を食べた。今日は家族と一緒に食卓に着けた。
あまり残業せずに済んだのは、ラッキーが重なって神様からのご褒美かと思った。
「頑張った甲斐があったね」
部屋に戻り、私からるいに話しかけると、るいも元気に頷いた。
ああ、私のために泣いてくれる大切な存在が、笑ってくれている。
私は、安堵した。
「レイコさん、明日はお休みだね?」
るいは、初めての休日にわくわくしているのだろか。そんな事を言って来た。
「うん」
何か予定はある? とるいは言う。
「うーん」
実は、気晴らしにるいの本体の花と出会った縁結びの神社に行ってみようかと思っている。
花の精のるいと出会えた縁。それに、今週色々な先生と改めて話して、夏芽とも電話をしてーーそんな縁を感じて、お礼参りがしたいと思っていた。
るいは、ふふふ、と温かく笑う。
「律儀だねえ」
感情を表に出すことが、少しずつ出来るようになってきた。今日実践してみて、自信がついた。夏芽様様だ。
だが、まだ泣くことだけはやっぱり苦手で、涙は出ない。
お礼参りをして、神様に泣き方を思い出せるようにお願いもしようと思う。
私の話を聞いて、るいは言葉を選びながらゆっくりと言った。
「泣いて、つらさを和らげて。そうして、自分を軽んじることが無くなったら」
やっと一人前だね、とるいは明るく言った。
夏芽の電話や、今日までの経験を通して、私はその通りだと思う。
「もう寝ようか」
「明日は神社だね!」
私が呼びかけると、るいは嬉しそうに言った。
私は部屋の明かりを消す。
早く、一人前になりたい。
そう思う自分がいる。けれど、隣で目を閉じるるいを見て思う。るいならきっと、焦らなくて良いよ、と笑ってくれる。
私は、暖かい布団の中で微睡んだ。
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るいは、隣でレイコの寝息を聞いて、目を開ける。
「やっぱり、レイコさんは凄いや」
頑張ったねと、心の中で褒めてあげる。そして、レイコが自分にしてくれたように、一週間懸命に頑張った彼女の頭を優しく撫でる。
けれど、一つ心配なことがある。どうしたら、泣き方を思い出してくれるだろう?
どうしたら、彼女は、泣けるようになるのだろう。
早く、一人前になりたいと、優しく責任感の強い彼女は考えるに決まっている。
「焦らなくて良いよ」
いつかも言った台詞を、そっと口にする。
るい自身も、レイコが泣けるようになる方法に途方に暮れていた。このままでは、恩返しにならない。だから、彼女がお礼参りと言って神社に行くのは賛成だった。
もう、神頼みしか浮かばないんだ。ごめんね。
レイコは寝相が悪く、掛け布団から肩が出てしまっている。外は暑いとはいえ、冷房の効いた部屋でそんな風に寝ては風邪をひいてしまう。
るいは、物に触れられない。自分が恩返しするレイコにしか、触ることが出来ない。
だから、布団を掛け直してあげることが出来ず、仕方なくレイコの足を引っ張って、肩を布団の中に入れる。
僕が、足を引っ張っているのかな。
レイコが泣けない理由を自分の中に探しそうになる。
自分がネガティブになってはいけない、とるいは慌てて布団の中で再び目を閉じた。
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