母を求めて

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 魔女はその後もしばらく押し黙っていたが、不意にシオンの方に一瞥をくれた。 「……本当に、それで後悔はないんだね」 魔女がゆっくりと尋ねてきた。突き刺すような視線を向けられ、シオンは一瞬気圧されそうになったが、すぐに顎を引いて頷いた。  魔女はそのままシオンを見つめていたが、やがて前方に向き直ると、深々とため息をついた。 「……やれやれ、あの親にしてこの娘あり、か」  魔女はそう呟いた後、ローブの中からおもむろに小瓶を取り出した。鍋の中で煮え立つ緑色の液体を小瓶で掬うと、次いで次に傍らに置いてあった皮袋の中に無造作に手を入れる。そこから粉を一つまみ取り出し、ぱらぱらと小瓶の中に入れる。  次の瞬間、小瓶の中の液体が勢いよく泡立ち、みるみるうちに赤色の液体に変わった。シオンは目を丸くしてその光景を見つめたが、魔女は驚いた様子もなく淡々と小瓶に蓋をすると、それをずいとシオンの眼前に突きつけた。 「これがあんたの望みのものだ。海の上に出てこれを飲めば、あんたのその鰭はたちまち人間の足になる。そのまま潮に流されていけばやがて浜辺に辿り着き、そこで望み通り、人間に会えるだろうよ。」 「あ……ありがとうございます! 」  シオンはぱっと顔を輝かせると、両手で大事そうに小瓶を握り締めた。これでようやく人間になれるのだと思うと、嬉しさで胸がはちきれそうだった。
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