母を求めて

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「話はそう簡単じゃないよ。その薬には一つ、注意すべき点がある」  魔女が釘を刺した。シオンは顔から笑みを消すと、慌てて魔女の顔を見返した。 「その薬を飲めば、あんたは確かに人間の姿になることができる。だがね、満月の夜、潮が最も満ちる時だけは、あたしの魔法は海の上までは届かなくなってしまう。その時には一時的に魔法が解け、あんたは元の姿に戻ってしまう」 「え、それじゃあ、もし人間と一緒にいる時に、魔法が解けてしまったら……?」シオンが不安そうに尋ねた。 「……考えたくもないね」  魔女はそれだけ言うとふいと視線を外し、またも薬をかき混ぜ始めた。シオンは不安を拭えぬまま手の中の小瓶に視線を落とした。 (……でも、お母さんもこの薬を飲んで人間になったのよね。それで今まで帰って来ないってことは、きっと上手くやってるってことよね……)  シオンはそう自分を納得させると、今一度魔女にお礼を言い、そのまま浮上していった。彼女の動きに合わせてぶくぶくと泡が立ったがすぐに立ち消え、辺りは元の静寂に包まれた。  魔女は顔を上げ、シオンの消えた先をじっと見つめたが、やがて大きくため息をつくと、のろのろとした手つきで薬をかき混ぜた。
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