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地上の世界へ
海中まで戻ってきたシオンは、そのまま光が差し込む海の上に向かって泳いでいった。途中で魚達が現れて彼女の後を追ってくる。シオンが魔女に会いに行ったのを知っていて、彼女が地上に行くのを引き留めようとしているのだ。
シオンは泳ぎを止めて振り返ると、申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんなさい。あなた達と別れるのは私も辛いけど、仕方がないの。こうでもしなければ、私はずっとお母さんに会えないもの。だからお願い、このまま行かせて」
シオンはそう魚達を嗜めようとしたが、魚達は哀願するように背鰭をぱたぱたさせた。
『嫌だよシオン、君の歌が聴けなくなったら、僕達は何を楽しみに生きていけばいいんだい?』
そんな魚達の言葉がシオンの耳には聞こえてくるようだった。シオンはだんだん居たたまれなくなり、魚達を正視できずに目を背けた。
「……ごめんね、さようなら」
シオンはそう言って魚達に背を向けると、振り切るように再び地上へと向かった。魚達はなおもシオンの後を追おうとしたが、泳ぎを速めた彼女には到底追いつけず、間もなくシオンの姿は頭上から差し込む光の中に消えた。
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