朝の浜辺にて

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 麗二が歩を進めるにつれ、鳴き声は次第に大きく、鮮明になっていった。麗二は胸がざわつくのを感じ、次第に歩調を速めていったが、ついには堪えきれずに駆け出した。  やがてその光景を目の前にした時、麗二は思わず立ち尽くした。何羽ものカモメが浜辺の一点に密集し、あるものはその周りを飛び、あるものは砂浜に降りて地面を突いている。  そしてカモメが群れを成すその中央に、人が一人倒れているのが見えた。髪の長さからして女性らしく、こちらに背を向けているために表情まではわからなかった。  麗二はその女性の傍に駆け寄ると、女性の肩を揺さぶった。 「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」  その時、肩を揺さぶられた反動で女性の身体がごろりと動き、仰向けの状態になった。麗二はそこで初めて、その女性が何も服を身に纏っていないことに気づいた。  麗二は気恥ずかしさに思わず目を逸らしたが、いつまでもそうしているにもいかず、やむなく自分のシャツを脱ぎ、目を伏せながら女性にかけてやった。それでも女性が目を覚ます気配はない。黒い長袖の下着一枚という格好になった麗二は、途方に暮れて息をつくと、片膝をついて改めてその女性を見つめた。  若い女性だった。腰まで伸びた漆黒の髪は波打つように広がり、太陽の光を浴びて光る白い肌はまるで真珠のようであった。その美しさはこの地上のものとは思えず、麗二はしばらくその姿に見惚れていた。  だが、そうやって女性の顔を見つめているうちに、麗二はふとあることに思い当たった。この女性、誰かに似ている―。  その人物を思い出すのに時間はかからかなかった。麗二は一瞬顔を曇らせたが、すぐに頭を振ってその考えを打ち消した。まさか、そんなはずはない。だって彼女はもう―。  麗二はその後もしばらく女性を見守っていたが、女性が目を覚ます気配は一向になかった。周囲で鳴いていたカモメの声もいつの間にか聞こえなくなり、打ち寄せる波の音だけが砂浜に響く。  麗二はもう一度ため息をつくと、そっと女性の身体を起こした。目を伏せ、なるべく女性の身体に触れないよう慎重にシャツを着せると、彼女を背中におぶって歩き出した。
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