目覚め

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目覚め

 薄闇に包まれた海の中で、シオンは何かに導かれるように唐突に目を開けた。枕代わりにしていた岩場から顔を上げ、覚めきらない目で辺りを見回す。いつもなら母と並んでこの岩場で眠り、朝まで目を覚ますことはないのに、今日はいったいどうしたのだろう。  シオンはぼんやりとした意識のまま、何気なく視線を下にやった。だが、そこにある違和感の正体に気づくと、シオンの意識はたちまち鮮明になった。隣で眠っているはずの母の姿がないのだ。 『お母さん!?』  シオンは目を丸くして叫ぶと、慌てて母の姿を探した。周囲の岩場を覗き、海藻の間を探してみたが母の姿はどこにもない。薄闇に紛れているのではないかと目を凝らしてみたが、結果は同じだった。確かに隣で眠りについたはずなのに、母はどこに行ってしまったのだろう。  その時、どこからともなく魚達がシオンの周りに集まって来ると、一斉に縦向きになって口を上向きに尖らせた。それを見てシオンはぴんと来た。 『お母さんなのね? お母さんはそっちに行ったのね!?』  魚達の答えを待つまでもなかった。シオンは水流のような勢いでその方向に泳いで行った。
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