目覚め

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 シオンはそこではっと目を開けた。何度か瞬きをして意識を呼び戻した後、ゆっくりと身体を起こし、額に手をやる。  どうやら夢を見ていたようだ。母と別離したあの日の夢。あの日から母もう何年も経つのに、映像は決して色褪せず、細部まで鮮明に再現されている。夢を見るたびにあの日の記憶が蘇り、そのたびにシオンは思い知らされるのだ。母は自分を置いていなくなってしまったのだと。  シオンは憂わしげにため息をついたが、そこでふと身体に違和感を覚えた。下半身の辺りが今までと何か違っている。だが胸の辺りから下半身にかけて柔らかい布がかけられていて、身体がどうなっているのかわからない。シオンは身体の上にかけられた柔らかい布を捲り、違和感の正体を確かめようとした。 「これは……!」  それを目にした途端、シオンは驚愕に口元を覆った。いつもそこにあった翠色の鱗はなく、代わりにあるのは、肌と同じ色をした長い二本の棒だった。シオンはそれをまじまじと見つめた。  そう言えば、昔母から聞いたことがある。人間には人魚のような鰭はなく、代わりに〈足〉というものがあるのだと。地上では海のように泳ぐことができないため、人間はこの〈足〉を使って生活しているのだと。母の言っていた〈足〉とは、この二本の棒のことなのだろう。  シオンは呆然として自分の身体から生えた〈足〉を見つめていたが、次第にその顔が綻んでいくのを感じた。 (これが、人間の〈足〉……。私……本当に人間になれたんだ……)
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