プロローグ ―紺碧の海で―

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 それは地上から遠く離れた海の底。紺碧に彩られた幻想的な世界の中を、色とりどりの小さな魚達が優雅に泳いでいる。彼らはある場所へと向かっていた。そこに近づくにつれて、まるで天上からの贈り物のような美しい歌声が聞こえてくる。魚達はうっとりとその声に聴き入りながら、歌に誘われるように声の主の元へと急いでいく。  やがてその主は姿を現した。灰色の岩場に腰かけ、胸に手を当てて歌う一人の女性。一糸まとわぬ白い肌の上に、胸元を隠すように大きな貝があてがわれている。腰まで伸びた漆黒の髪が、波の動きに合わせて揺れている。だが、何よりも目を引くのは、腰から下にかけて肌を覆う翠色の鱗と、その先端についた羽のような尾鰭だ。  そう、この深海に響きわたる歌声の主は、人魚だったのだ。
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