自分の足で

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 その時、ふと〈足〉の方に違和感を覚えてシオンは視線を落としたが、そこにある光景を見て思わず目を丸くした。自分の身体から生えている二本の〈足〉、それが鳩先と同じように、ぴったりと地面についているのだ。周囲に水のないこの空間で、鳩崎の助けもない中で、この細い〈足〉だけが自分の身体を支えている。 「……そのご様子では、もう少しお休みになった方がよろしいようですな」  鳩崎がため息混じりに言った。 「坊ちゃまのことでしたらお気になさいませぬよう 時間を改めて頂くよう、私からお伝えしておきますので……」 「あの」  シオンが不意に口を挟んだ。ゆっくりと〈足〉から視線を上げ、鳩崎の目をまっすぐに見つめる。 「私……〈ぼっちゃま〉に会ってみたいです。手を貸してもらえたら、きっと〈歩く〉こともできると思うんです。だからお願いです。私を、〈ぼっちゃま〉のところへ連れていってください」 シオンのその申し出に、鳩崎が驚いた様子で目を開いた。そこで初めて、瞼の奥に広がる静かな黒い瞳が見えた。  シオンは鳩崎から目を逸らさなかった。大地を踏みしめる二本の足、そこから伝わる温もりを一身に感じながら、シオンはようやく、自分が本当に人間になったことを自覚したのだった。
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