海底の魔女

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 シオンが逡巡しているのを見て、魔女がそれ見たことかといった調子で鼻を鳴らした。 「わかったら大人しくあんたの住処に帰るんだね。あんたにはあんたを求めてくれる世界がある。それで十分じゃないか」  魔女はそれだけ言うと、シオンに背を向けて再び薬を混ぜ始めた。拒絶を全面に出したその背中を、シオンは途方に暮れて見つめた。  最初からすんなりいくと思っていたわけではない。魚達から魔女の噂は聞いていたが、その内容は決して好意的なものではなかった。  何でも、魔女は日がな怪しげな薬の調合を続けていて、機嫌が悪い時に会いに行こうものなら、即刻魔法でプランクトンに変えられてしまうとのことだった。そうでなくても魔女は気難しい性格という話だったから、お願い事をしたところで叶えてもらえる可能性はないに等しく、にべもなく断られたのは当然とも言えた。プランクトンに変えられなかっただけでも有り難いと思わねばならないだろう。  でも――シオンは諦めきれなかった。シオンは何も、自分が人間に会いたいという理由だけで遙々魔女に会いに来たわけではなかったのだ。
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