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「こっちこっちー! 発送するのまとめてるから。こっちに置いて」
「あれ、このダンボールって、展示用のだっけ? ショーのやつ?」
社内は夏の展示会に向けて、みんな走り回っていて騒がしかった。
俺の所属する部門も今回、スポーツ&リラックスをテーマにウェアを取り扱うことになり、連日その準備に忙しかった。
「大森さーん、ブースのイメージ、先方に送りました?」
「ああ、早速修正が入ったから、午後にまた練り直す」
「みんなー、忙しいと思うけど、お昼はしっかり取ってね」
部長の一言でみんないったん手を止めて休憩をとることになった。
今日はなにも用意していなかったので、コンビニに走ろうと外へ出たら廊下でばったりと雅に会ってしまった。
「あっ、大森さん、お疲れ様でーす」
雅は手を上げて、可愛い後輩の顔で俺に笑いかけてきた。
二週間前、雅と淫らな夜を過ごしてから、俺の方はすっかり意識してしまい、恥ずかしくてぎこちない対応になったが、雅の方は変わらない態度で接してきた。
どう返すのが正解なのか分からなかったが、なんとか普通の顔を保って先輩として接している。
しかし、あまりに態度が変わらず、俺に触れてくることもない雅に、あの夜は何だったのか、俺をどう思っているのかと、雅の顔を見る度にそんな風に思ってしまい胸が痛かった。
もちろん俺の趣味を周りに言いふらしたりなどしない。
何もかも変わらない日常だったが、それが逆に俺を不安にさせていた。
「これからお昼ですか?」
「ああ、やっとだよ。コンビニに行ってこようかと……」
「それなら、一緒に食べませんか? 弁当があるんです。いつものところで……」
フッと微笑んだ雅は、俺の手にさりげなく触れてきた。それは一瞬だったが、あの夜のことを思い出してしまい、ゾクっと背中が痺れてしまった。
今日も美しくて完璧な雅は、忙しくても少しも乱れがなくて、全身まるで作り物のマネキンのようだ。
しかしこの男のスーツの下を俺は知っている、そう思うだけでたまらない優越感と後ろが疼いてしまい、なにを考えているんだと慌てて雑念を吹き消した。
雅のお言葉に甘えて、今日はご馳走になることにした。
いつものところと聞いて、高鳴る胸を必死に押さえて雅の跡を追った。
「弁当って……手作りか……すごいな」
てっきり近くの店のテイクアウトでも買ってきたのかと思っていた。
非常階段に到着して腰を下ろしたら、雅が袋から取り出したのは、木の板を曲げて作られた伝統工芸品のような弁当箱だった。
それを何個も取り出したと思ったら、それぞれ主食主菜副菜と分けてあり、果物を入れたデザートまで用意されていた。
お前そこまで持たなくていいからとツッコみたくなるくらいの有能っぷりに、俺はとっくに完敗していた。
「趣味の範囲じゃないなこれは……、普段は自炊してるのか?」
「はい。料理はばーちゃんに仕込まれたんです。他人の作ったものが食べられないわけじゃないけど、自分で作るものが一番美味しくて。ばーちゃんが死んでから、ちゃんとなかなかコレってものに出会えなくて、だから自分のが一番信用できるんです」
「そうか、苦労したんだな……」
「そうでもないですよ。お金はありましたし」
さらっととんでもないことを言ってくるが、飾らない反応に、雅らしいなと思ってしまった。
「一時期、俺の家って友達がたくさん出入りしてたんですよ。勝手にキッチン使って料理上手なんですってアピールしてくる女いるじゃいですか。ああいうのが一番だめで、食べてとか言われて出されても本当に苦痛で、それで家に人を入れないようになったんです」
雅の作った料理は、いかにも年寄りが好みそうなラインナップで薄味だったが、普段食べ慣れないものなのに、こんなに美味しかったのかと思うくらいのものばかりで、あっという間に平らげてしまった。
王子兼料理研究家としてでも上手くやっていけそうで、雅が売れていく様子までイメージできてしまった。
見た目チャラ王子なのに、綺麗に残さず食べて、片付けまでしっかりやってしまう雅にもう驚くことも飽きてしまった。
「そういえば、大森さんはどうして下着フェチになったんですか?」
「ぶっっ! …ごっほっっ」
もう知られてはいるのだが、なんでもない日常会話のように持ち出されたので、飲んでいたお茶を噴き出してしまった。
今さら隠す話でもないし、さらっと伝えて重く考えられない方がいいと思った。
「俺の場合、親への反抗みたいなモンだ。特に母親が過保護で性的なものは汚らわしいと排除された。俺は臆病で弱虫だったから、それに従っていた。ある日偶然、女物の下着を手にする機会があって……まあ、それは結局母に見つかって叱られたわけだけど」
机の奥に隠したあの飛んできた下着は、結局母親の抜き打ちチェックで発見されてしまった。
ひどく怒られて、汚らわしい、毒だから触れたらだめだと取り上げられてしまった。
しかしそのことがよけいに反抗心に火をつけた。
自分でネットで注文して、再び下着を手に入れた。
どうせなら自分で穿いてる変態な息子ですと、どうだって見せつけてやるつもりで買ってみたのだが、実際に穿いてみたところ、衝撃を受けたのだ。
「自分で穿いてみたら、すごい安心感に包まれてホッとしたんだ。今まで自分を縛り付けてきた鎖から解放されたみたいに……。それで自分の姿を鏡に映したら、胸が高鳴って、どんどん興奮してきて……、まあそんな感じだ」
「……へえ、そうだったんですね」
こんなことを誰かに話したのなんて初めてだ。
絶対に嫌だと思っていたけれど、話してみたら胸の奥がスッキリしたようになった。
俺はこの秘密を誰かと共有して、分かってもらいたかったのかもしれない。
「大森さん……」
気がつくと雅の声を耳元で感じだ。
また眠くなったのかと思ったが、雅の手はいつの間にか俺のシャツのボタンを外して中に侵入してきた。
ぐにゃりと胸を揉まれて、あの夜の甘い痺れが戻ってきてしまった。
「ばっ……おい、こんなところで……」
「この時間誰も来ないですよ。来てもここは死角ですからすぐにはこちらに気づかれません」
あの夜のことなんてなかったみたいに元に戻っていたのに、また触れてくるなんて雅の考えが全然読めない。
「大森さん、午後の会議出ますよね? それまで自由にしていいって言われませんでしたか?」
「あ……ああ。そうだが」
「俺も、同じです。この前は強引だったし、会社だと自重しなくちゃって思ってきたけど、こんな風に二人きりなんて、もう……我慢できません」
「んっああっ、つっ……摘むなっ」
「ああ、たまらない。この肉厚の感触……どうしてこんなにエロいんですか? こんなに美味しそうなの……食べないではいられません」
俺のネクタイを後ろに流して、シャツの前を全開にした雅は乳首を摘んだと思ったら、片方の乳首をペロペロと舐め出した。
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