716人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
大盛況のうちに展示会は終了して、各自片付けが終わったら自由解散になった。
俺と雅は飲みに誘われたがそれぞれ断って、俺の家に向かった。
雅の家から比べると極狭に思われるかもしれないと思ったが、オーケーしてしまったのだから仕方がない。
帰り道はタクシーで、展示会の様子などを話しながらごく普通の先輩と後輩、という顔で家まで着いた。
「なんの興味を持ったのか分からんが、とにかく狭いから、それに掃除もちゃんとしていないし、覚悟してくれよ」
鍵を開けてドアノブをガチャンと回したら、俺の城が姿を現した。
玄関にはゴミ回収に出し忘れた雑誌やビンカンを置いていたし、靴箱も埃をかぶっている。
とにかく男の一人暮らしだからと連呼してみたが、考えたら雅も男の一人暮らしなのに、あのモデルルームのような綺麗さは決して真似できないと思った。
「綺麗にしている方じゃないですか? うちは週二でクリーニングを頼んでるんです。働いていて、そこまで家のことをできないですから」
出た、謎のセレブキャラ!
その辺りをツッコんで聞いてみたいと思いながら、雅をリビングのソファーに座らせて、冷蔵庫から缶ビールを取り出して雅と自分の前に置いた。
この家に自分意外の誰かを呼ぶなんて久しぶりだ。
おもてなしができるようなツマミになりそうなものは何もなかった。
「いつも弁当ですか?」
「そうだ、うちは男子厨房に入らずで、包丁すら握らせてもらえなかったからな。ろくに料理もできない状態でこの歳に……。と言うのは言い訳で、結局俺がやらないだけなんだが。今は買えばなんでも揃うし」
「まあ、そうですね。でも揚げ物ばかりだと健康に悪いですよ」
「ううっ……」
唐揚げ弁当の容器を積み重ねていたのを発見されてしまったらしい。
まさか年下から健康について注意されるとは思わなかった。
自分でやるキッカケが欲しかったのもある。
重い腰を上げようかなと考えながらビールをぐっとあおった。
「それにしても、展示会、成功してよかったですね」
「ああ、いまの部署に異動して最初はどうなることかと思ったけど、展示会も成功したし、最初の課題はクリアできたかな。なんとかやっていけそうでよかったよ」
「女性ばかりの職場で戸惑いませんでしたか?」
「そりゃそうだよ。今までオッサンに囲まれて真逆だったんだから。お前は……、昔から囲まれ慣れてそうだな」
この華やかな容姿で明るい性格だ。
モテないはずがない。
呼吸をするように告白されてきた姿が想像できた。
「モテなかったとは言いませんが、昔は女の子と対立することも多かったです。子供の頃は女の子とよく間違えられましたし、それで男にもモテてライバル視されることも度々、それから上手くやる方法を身に付けたんです。女性って敵に回すと怖いけど、懐に入るとすごい団結力で頼もしいじゃないですか」
「ああ、確かにその通りだな。なるほど、それでみんなに試作品を着せられてノリノリで笑ってたのか……」
「そーです。ここではあれくらいやらないと、嫉妬が生まれたりしますから。玩具になって可愛がられているくらいが平穏でいいんです」
俺の趣味と似たようなところがあるのかと思っていたが、雅の場合完全なビジネスだったらしい。
「お前を、少し誤解していたかもしれん。チャラいしモテるから軽そうとか……、本当は俺より真面目で仕事も私生活もしっかりしてるし、見習わないといけないくらいだ」
「ええっ、そんな……」
「いや、本当にそうだよ。お前見ていると完璧すぎて、俺はなんだって気持ちになる。平凡なのは仕方がないが、変態の趣味もあるし……」
雅が太陽なら俺は宇宙のゴミみたいなものだ。
自分が恥ずかしくなって小さくなっていたら、雅はソファーから降りて、俺と同じ床に座ってきた。
「俺は完璧な人間なんかじゃないです。髭を剃り忘れて出社することもありますし、風呂に三日入らないこともあります。歯磨きを忘れたり、鼻をほじりながら……」
「いやお前、女子の夢を壊すなって。それどこでも言うなよ」
「だから完璧じゃないんです。子供の頃、思い描いた自分とも違います。愛されたいと思うけど、誰でもいいわけじゃなくて、好きな人の特別になりたいのに、人の心はどうにもできなくて、空回りばかり。カッコ悪くて本当に嫌になって……欲ばかり先走ってめちゃくちゃヤっちゃうし、それで後悔して諦めようって思ってもどうにもできなくて……」
なんだか話の流れがおかしな方向に進んでしまった。いつも飄々としている雅が、真っ赤になって熱く語り出したので、これは誰なんだろうとマジマジと見つめてしまった。
「あーもう、好きです! 好きなんです!」
「は………? 誰が?」
「大森さんですよ! 他に誰がいるんですか!」
信じられなくて頭が真っ白になってしまった。
確かに雅はチャラそうに見えるが、真面目で……恋愛においても、遊びで手を出すような男ではない……のだとしたら、俺とああいうことになったのは……
「………雅、分かってるのか? 俺は男だし、クソ似合わないのに下着が好きな変態で……」
「男とかじゃない。大森さんが好きなんです! それに必死に生きて生きて、自分が安らげると思ったことで、誰にも迷惑をかけないのなら、何が悪いんですか? この世界で誰もが似合わないと言ったとしても、俺は、俺は大森さんのその姿が好きです。いや、大森さんが好きだから、その姿も好きで、もちろん興奮します! 本当に好きなんです! ダメですか? 俺一人だけ、好きだって言っても大森さんは嫌ですか?」
自分でも整理できなくて確認の意味で口にしたが、ものすごい熱量で返されてしまった。
こんなに熱い男だったのかと思い知らされた。
「い……ダメとか嫌ではない……嬉しい」
「本当ですか……! 大森さんも俺のことを……」
「好き……だと思うが、すまん、ちょっと混乱していて」
体の関係から先に入ってしまったが、その前にも雅で妄想していたくらいだから、俺は雅を気になっていた。
そして身体を繋げたらもう頭の中は雅でいっぱいになってしまった。
こんな俺のことで熱くなってくれる雅に、嬉しくて愛おしいという気持ちが溢れてきた。
「いいです! それでいいです! 好意が少しでもあるなら。大森さん、好き好きっもー本当に好き!」
「うおおっっ」
目を潤ませて嬉しそうな顔になった雅は全力で俺に飛びついてきた。不意打ちで支えきれず、雅にのし掛かられて床に倒されてしまった。
「みや……ちょっと……待て……んんっ……っっ」
雅は言葉を発する間も惜しいのか、俺の顔中にキスをして唇を奪ってきた。
舌を絡ませて、雅の長い舌で喉の奥まで舐めとられた。呼吸をする暇すら与えてくれない、激しく淫らな口付け。
キスの雨に加えて、酸欠になりそうな深い口づけに、すっかり俺の頭はトロけてしまった。
「大森さん、ベッドに行きましょう。もうすぐにでも、あなたを愛したい」
雅のやけに男らしい誘い方に、心臓がドキッと揺れて体の奥に火がついたのが分かった。
俺は返事をするように、雅の唇に自分唇を重ねた。
最初のコメントを投稿しよう!