後編

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 ※※※※※※※  extras  ※※※※※※※  恋人ができた。  年上の人だ。  幼い頃、両親を亡くして、祖父母に育てられた。  祖母は教育熱心な人で、今思えば自分は先に逝くのだから、一人でも生きていけるような力を早くから身に付けてもらおうと厳しく育てたのかもしれない。  祖父は会社を一代で築き上げた人で、仕事人間だが俺には甘く優しかった。  自慢ではないが、幼い頃からモテまくりの人生で、何人と付き合ったか分からない。  人当たりが良く誰とでも仲良くなれるタイプだが、これ以上立ち入らせない一線があって、それを意識した時にいつも別れてというのを繰り返してきた。  正直、もう恋愛は疲れたし、適当に遊んで暮らすのもいいかななんて、思い始めていた頃に出会ったのが、今の恋人、大森さんだ。  交友関係は広くて、ゲイの友人も何人かいた。  人が何を選ぶのかなんてどうでもいいが、自分はそっちではないなと思っていたのに、大森さんに出会った時、自分の中に芽生えたことがない感情が生まれた。  最初はそれがなんだか分からなくて、また色々な女の子と付き合ってみたが、前よりずっと気が乗らなくて、ひどく乾いてしまったように感じていた。  そして大森さんが異動してきて、同じフロアで働くようになり、この複雑な感情が恋だということに気がついた。  両親が残していってくれたクマのぬいぐるみ。  思えば、大森さんはそれによく似ていて、見れば見るほど心を奪われた。  しかもイカつい見た目に対して、性格は温厚で優しくて、どんどん惹かれていくのが分かった。  だが、同じ男であるので性欲が湧くのかが疑問ではあったが、それは全く問題がなかった。  飲み会の後、同じホテルに泊まることになり、酔って寝転んだ大森さんの服を着替えさせようと脱がせたら、勃ち上がったそこを見て、今まで覚えがないくらい興奮してしまった。  絶対手に入れたい。  そう思ったら頭が真っ白になった。  今までの恋愛経験なんて何一つ通用しない。  覚えたてのガキみたいに強引にしてしまい、後から自己嫌悪に陥った。  どうしていいか分からず、もう諦めた方がいいかとすら思ったが、後輩を助ける大森さんを見たら、やっぱり好きだと実感してしまった。  そんな時、満身創痍で告白したら、大森さんも好意があると言って俺を受け入れた。  晴れて恋人同士。  週末はお互いの行き来して甘い時間を過ごす。  こんな幸せがあったのかと思う日々を送っている。 「遅くなっちゃった。大森さん、お腹空かせてるよな」  金曜の夜、先に退社した大森さんに鍵を渡して家で待っていてもらった。  普段は俺が料理して二人で食べるのだが、会議が長引いてずいぶんと遅くなってしまった。  冷蔵庫にある食材を思い浮かべて、すぐに作れるものを考えながらエレベーターを上った。 「すみませんっ、遅くなっちゃって……」 「お疲れ、大丈夫だ。ゆっくりしていたから」  玄関に入ると、大森さんが笑顔で迎えてくれた。  怒っていなくてよかったと思っていたら、着替えを済ませるとちょっと座ってくれと椅子を引かれた。 「全然上手くできなくて、情けないんだけど……」  俺が椅子に座ると大森さんがキッチンから何かを持って歩いて来た。 「人が作ったものが美味しくないとか苦手って聞いたし、どうしようかと思ったんだが、この時間から作ってもらうのは悪いから……」  これで我慢してくれと言って、大森さんは俺の前に皿を置いた。 「えっ………これ…………」  それはどう見ても形が悪く、ところどころコゲまであるオムライスだった。  そしてトマトケチャップで、おうすけと俺の名前が書かれていた。  ずいぶんと揺れていて、やっと読めるくらいだったが。 「スマン、子供っぽくて。子供の頃、好きだったのを考えたらこれしか思いつかなくて……あー料理上手なお前にこんなものを……」  大森さんは頭に手を当てて顔を真っ赤にしていた。  俺はそんな大森さんの様子を見た後、置かれたスプーンを持ってすくってから、口に運んでみた。 「あ……味は、それほど悪くない、と思うんだ。でも、不味かったら、食べなくていいから……」 「………しい」 「え?」  祖母が亡くなってから、人の手料理がますますダメになった。  食べることはできるが、何を食べても美味しいと思えない。自分で作ったものを食べる時が唯一美味しくて安らげた。  きっと一生変わらないと思っていた。 「……名前がついたオムライス……夢だったんです。こういうのテレビとかによく出てくるけど、してもらったことないから……」 「そうか、それはよかっ……ってええ!? 泣いてるのか? そんなに不味かったらいいって……」 「違うんです。違くて……」  今やっと分かった。  形の悪いオムライス。  生焼けだったり、焦げていたり。 「美味しい……美味しいんです、それが……嬉しくて……」 「雅……」  料理に込められた愛情。  それを感じることができたなら、料理は美味しく感じるのだと。 「美味かったならよかったよ。ほらまた作ってやるから」 「ううっ……ありがとうございます。でも次は、俺と一緒にやりましょうね。卵のカラが入ってましたから、まずは割り方から教えます」 「えっっ、よ……よろしく頼む……」  口をへの字に曲げて慌てている大森さんを見たら、ぷっと噴き出して笑ってしまった。  しっかり全部食べ切ってから、皿を片付けて、くるっと振り返ってぼけっとしている大森さんに声をかけた。 「じゃ、デザートお願いします」 「いや、さすがにそこまでは……アイスでも買ってくるか?」 「こっちのデザートがいいんですけど」  財布を持って部屋を出ようとしている大森さんの手を掴んで引き寄せた。  首元に腕を回して、ぺろぺろと唇を舐めたら、大森さんは口を開けて俺を迎い入れてくれた。  舌を絡めて唇を吸って、口の端から溢れた唾液まですっかり舐めとってしまった。 「こっちも美味しいです」 「ばか……」  どこもかしこも可愛いなんて反則だ。  俺の最高に愛おしくて甘い恋人。  □おわり□
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