発端はカラオケ

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発端はカラオケ

 また、やってしまったと思った時はすでに遅かった。自分の空気の読めなさ加減に辟易する。  カラオケなんて行かなきゃ良かった。私はガクッと肩を落としながら帰宅した。  電車の中で何が悪かったんだろうと自問した。  今日はうちの高校、愛加羅(あいから)学園で外国語発表会があった。3年に一度、他校の生徒を呼んで開かれる催しで、外国語に力を入れている高校がそれぞれ歌と劇を披露するのだ。  歌だけはみんなと一緒に舞台に立ったけど、劇は音響や照明という裏方だった。それでもそれなりに緊張もしていた。  だから発表会が終わったときに、私は開放感に包まれていた。それであんなことをしでかしたのかもしれない。  打ち上げで、ファミレスで食事をした後の二次会がカラオケという流れも、高校生の打ち上げの定番だろうくらいに考えて、疑いもせずついて行った。  でも、カラオケにまさか男子があんなに来ているなんて。うちは女子校なのに、一緒に参加していた男子校の生徒を誘うなんて聞いてなかった。それに、二次会に参加した生徒のほとんどは普段私が関わることのない、いわゆる垢抜けた人たちだった。いくら鈍い私でも、この二次会のカラオケは私が来るようなところではなかったのだと気付いた。  でも、そこまではまだ良かった。せっかくカラオケに来たからにはお金も払ってるし、何曲かは歌わないと。そう思ったのがいけなかったのかもしれない。  男子の一人が入れた曲に、この歌知ってる! と思って飛びついたのが絶対悪かった。私とその男子は同じメロディをユニゾンで歌うかっこうになった。  気づいたときには、微妙な空気だった。『何勝手に歌ってんの?』みたいな無言の圧力。曲を入れた男子は、他の男子にからかわれて嫌そうな顔をした。  ああ、私、歌っちゃ駄目だったんだとやっと気付いた。  持ったマイクを置く勇気もなく、私は途中から口パクで曲が終わるまでひたすら耐えた。そして、これが終わったらすぐに帰ろうと決意した。  曲が終わった後、あからさまな悪口が聞こえた。 「ちょっとさー、何で狩屋(かりや)さん来たわけ?」 「ホント空気読めないし」  面と向かって言ってこないくせに聞こえるように言う奴らに、私はかなりカチンときた。  だから、本音がつい口をついて出てしまった。 「カラオケで好きな曲が流れてきて歌うのがそんなにダメ? 喜んで男たちと一緒に盛り上がって、うれしそうに笑っちゃって、あんたたち馬鹿じゃないの。どうせ男なんてやることしか考えてないんだから。ホテルに連れ込まれる前にさっさと帰ったら」  その場はシーンとなった。私は誰かが反応を返してくるのが怖くなって、その前にそそくさとカラオケボックスを退散したのだった。
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