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売り子は売り子で面白かった。もちろん客のほとんどは女性だけど、たまに男性も混じってて、驚いた。友人や家族に頼まれて買いに来た人がほとんどだったけど、中にはオネエキャラのような男性もいて、新鮮だった。
「ちょっと回ってくるから、後よろしくね」
「はい」
吉田さんはどこかに行ってしまった。
まあ、接客にも慣れてきたし、北村君もいるから平気だよね。
そしたら、途中でお客さんに
「ネネネ先生ですか?」
なんて聞かれて困った。
「いえ私は売り子なんです。先生はちょっと今席を外していて」
私はかろうじて口にした。
「いつ頃戻ってきます?」
「えーと」
なんて答えたらいいかわかんなくて戸惑っていたら、
「30分から1時間ほどで戻ってくると思いますよ」
と、北村君が助け船を出してくれた。
その人は「また後できます」と言って去って行った。私はほっとしたものだ。
一緒に接客していて思ったけど、北村君は機転も利くし、不慣れな私をフォローしてくれてすごく優しかった。見直したかもなんて思ったりして。
イベントが終わって、吉田さんからお礼を言われた。
「ありがとう。すごく助かった。眞由美もたまには役に立つのね」
「眞由美?」
「姉貴のこと」
と北村君が口を挟んだ。
「そう。眞由美に言ったら、維之介貸したげるって言われたんだけど、男の子でしょ。男だと嫌がるお客さんもいるから、一人で任すわけにはいかないと思って。そしたら愛唯ちゃんが来てくれたから」
そういう経緯で私のこと誘ったんだと納得した。
「いえ、こちらこそいい経験になりました。ちょっと、やっぱり、ミキヤ受けは苦手ですけど」
私は苦笑した。
「ごめんねー。愛唯ちゃんは純粋なミキヤ推しだもんね。私たちみたいに腐に染まってると、すぐカップリングで考えちゃうから」
そういうもんなんだな。学校にも腐女子の友達いるけど、確かにアニメや漫画の男性キャラ同士をやたらとカップリングにしていた。
「あ、でも、オリジナルなら大丈夫ですので。今度読ませてください」
「あ、そうなの? 読んで読んで」
吉田さんは何故かスーツケースから同人誌を取り出し、私に渡してきた。
「念のため持ってきておいてよかった」
持ってたなんてびっくり。
「ホントありがとね!」
「どういたしまして」
そんな感じで吉田さんとは別れ、イベント会場を後にした。
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