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イベントが終わったのは夕方だけど、外に出るともう秋口だからかすっかり暗くなっていた。
「お腹空いてない?」
北村君に聞かれ、私のお腹が鳴った。お昼は食べたけど、途中交代でバタバタして食べたから、もう減ったみたい。
「夕飯食いに行かない? 奢るよ」
いやいやいや。奢ってくれなくていいよ。
「お母さん作ってるかもしれないし」
私は消極的に口にした。
「じゃあちょっとだけお茶でも」
「うーん、遅くなっちゃわない?」
「愛唯ちゃんち門限とか厳しいの?」
「そういうわけじゃないけど」
吉田さんにもらった同人誌や、なんとなく買ってしまった同人誌が結構かさばっていて、早く帰りたかった。
「あ、それ持つよ」
遠慮したのだけど、北村君に荷物を無理やり取られた。
「そんなに遅くならないようにするからさ」
それはそれで気になるので、私は「ちょっと待って」と一言言ってから、お母さんに電話をした。夕飯食べてきていいかと聞くと、
「大したものないから別にいいわよ」
なんて言われた。
電話を切って、北村君に「夕飯食べてきても大丈夫そう」って言ったらすごく嬉しそうだった。
ま、たまにはいいか。もちろん奢ってもらう気はないけど。
私たちはその足でファミレスに向かった。
「お疲れ様」
なんて言って、グラスを合わせてくるので、私も同じようにした。もちろんお酒なんかじゃなく、ドリンクバーだ。
「なんかごめんね。変なイベントで」
「ううん」
楽しかったから別にいい。買った同人誌は見るのが怖いけど。
「愛唯ちゃん心広いね。もし、わざと誘ったって言ったらどうする?」
「え?」
どういうことか全くわからなくて、聞き返した。
「本当は知ってたんだ。ミキヤ受けイベントって」
「え! ええっ!」
「まあ、それでも愛唯ちゃんがそんな苦手だとは思わなかったけど」
「もう。先言ってよ」
「ごめん」
北村君はすごく謝っていたけど、本当はそんなに怒ってなかった。
「本当のこと言ったら、もしかして来てくれないかなと思って」
北村君はばつが悪そうな顔をした。
「もういいよ」
楽しかったから許す。
「やっぱり心広いな」
そういうわけじゃないんだけどね。
帰り際に北村君に「またどこか行かない?」と誘われた。
「別にいいけど」
答えながら、北村君は私といて楽しいんだろうか、面白い話ができるわけでもないしと思った。
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