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ただ、良いことばかりでもなかった。
斉藤さんと一緒に教室に戻ったら、例の2人に絡まれたのだ。
「何オタク女とつるんでんの?」
「ダサい者同士でお似合い」
オタク女って別に本当のことだからいいけど、斉藤さんには関係ないじゃん。
「相手にするだけ時間の無駄。無視無視。ね、愛唯」
え? 斉藤さん今なんて言った?
「え、えーと」
斉藤さんは私の手を引っ張って、私の席まで移動した。椅子をひいて私を座らせたが、斉藤さんは私の席の前に立ちっぱなしだった。
「マジふざけんな!」
「本当にそんなオタク女と仲良くなったわけ? ダサっ」
クラス中に聞こえる大きな声で再び言ってきた。さっきと内容変わらないじゃん。他に言うことないんだろうか。
「ねえねえ、愛唯」
また斉藤さんは2人を無視して私に話しかけた。そんなことより何でさっきから名前で呼んでるの?
「何? 斉藤さん?」
「そんな呼び方じゃなくて名前で呼んでよ」
な、名前? 何だっけ?
パニックになってど忘れしてしまった。そしたら、耳元で囁かれた。
「沙織でしょ」
「さ、さおり?」
「はい。これで私たち友達ね」
ななななな。展開が早くてついていけないんだけど。
「ちょっと、斉藤さん」
「だから沙織」
「沙織」
仕方なく呼ぶしかない。
斉藤さんは私にしか聞こえない声で言った。
「ほら、あいつら睨んでる。興味ない振りして聞き耳立ててるのよ。ごめん。ちょっと協力して。でも、愛唯と仲良くなりたいのは本当だからね」
そんな殺し文句言われたら応えるしかないじゃない。
「わ、わかった。がんばって呼べるようになるから、待ってね」
「ふふっ」
斉藤さんじゃなくて沙織は嬉しそうな顔をした。チャイムが鳴った後も先生が入ってくるまで私たちは他愛ないおしゃべりをしていた。教室でこんな風に話したのはホント久しぶりだ。千郷がいた時以来だから、1年以上はずっと教室で一人で過ごしていたのだ。
なんとなく懐かしい気分になったのだった。
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