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お昼を食べながら推しのことやくだらない話をしている途中、沙織に言われたことを思い出した。男の子紹介して欲しいって話。
私は恐る恐る切り出した。
「あのさ、こんなこと頼むのもあれなんだけど、友達に男の子紹介してくれないかって頼まれてて、誰かいい人いないかな?」
「んなこと言われても、俺の周り口下手なやつばっかだしな。期待に添えないかもよ。どんな女子?」
やっぱり黙ってるわけにはいかないよね。紹介してもらう手前。
「実は、この前文化祭で北村君と言い合ってた斉藤さん」
「は?」
北村君の眉間にしわがよったので、私は慌てて取り繕った。
「沙織本当はすごくいい子なの。色々うまくいかなくて私に八つ当たりしてただけなの。謝ってくれたし、今すごく仲良いんだよ」
北村君の顔が更に険しくなった。
「愛唯ちゃん、お人好し過ぎない?」
「そんなことない。沙織本当に優しいから。会ってみればわかるよ」
私が必死で訴えたので、北村君は仕方ないなという顔をした。
「本当は嫌だけど、愛唯ちゃんがそこまで言うなら。でも、一度会ってみないと信じられない。愛唯ちゃん騙されやすそうだし」
騙されやすくなんかないもん。何でみんな疑うんだろう。本当に悪い人なんて早々いないと思う。多分。絶対。
「ここに一緒に来てる時点で。ゴホン」
北村君は言いかけてごまかすように咳払いをした。
「ちょっとそれどういうこと?」
「地獄耳」
「ねえ、北村君」
「別に紹介してあげてもいいけど、ご褒美欲しいな」
「ご褒美?」
急に北村君が言い出したことに気を取られて、何を聞き出そうとしてたのか忘れてしまった。
「ファーストキスとか」
え? 今何て言った?
私はつい椅子を後ろに下げて北村君から遠ざかった。
「ごめん。ちょっとからかい過ぎた」
北村君の馬鹿!
「愛唯ちゃん、大丈夫?」
「半径1メートル以内に近づかないで」
「冗談だってば。愛唯ちゃん」
冗談にしては笑えない。北村君はため息をついた。
「ちょっとは意識してくれるかなって思って。やり過ぎた」
「北村君っていつも女の子にそういうこと言ってるわけ?」
「言うわけないじゃん」
嘘。それにしては慣れている感じがしたから。
「愛唯ちゃん誤解してるようだけど、俺今まで女子と付き合ったことないよ」
こんな場面なのに、じゃあ男の子と付き合ったことあるの? なんて思っちゃう私の馬鹿。最近BL読み過ぎたせいかもしれない。
「ねえ、今良からぬこと考えなかった?」
「ま、まさか。あはは」
どうしてわかっちゃうのか。
「これだから腐女子ってやつは」
「そこ違う! 誤解。私腐女子じゃないもん」
「ホントに?」
「だいたいこの前のイベントだって、せっかく来たから本は買ったけど、あんなの認めないんだから」
ミキヤは推しであって、受けになって欲しいわけじゃない。誤解しないで欲しい。
「とにかく誰とも付き合ったことないし、デートしたのだって初めてだよ」
北村君はにっこり笑って言ったけど、私は素直に笑えなかった。
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