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その後、北村君はウィンドウショッピングをしながら、私の機嫌を直そうとギャグを交えて話してきたけど、ちっとも笑えなかった。
別に機嫌が悪いわけじゃない。ただ、自分が誰かから好かれるなんて考えたことなんてなくて気まずかっただけ。本当に本気なんだ。推しばかり追いかけてる私とは違う。沙織とおんなじ。
私はまだそんなのわかんないよ。
「愛唯ちゃん、まだ怒ってる?」
「アニメイト行ったら機嫌直る」
「いいよ。行こ」
本当は怒ってなかったけど、いいよね。
推しに癒されて、やっといつもの調子を取り戻した。
「この後どうする? カラオケでも行く?」
「カラオケ?」
私は唐突に最初に北村君に出会った時のことを思い出した。そして思った。あの恥ずかしい啖呵を切った私を好きになるなんて、やっぱりありえなくない?
「ねえ、北村君ってさ、私のどこがいいの?」
北村君は何故かため息をついた。
「今それ聞く?」
「どうせ私は空気読めないですよ」
やっぱり北村君だってそう思うんだと思って落ち込んだ。
「じゃなくて、せめて座って落ち着いてからっていうかさ。後でちゃんと話そうと思ったのに」
やっぱり空気読んでないってことじゃん。TPOを考えてないともいうのかな?
「そういうとこも好きだけど」
え? えーっ! えええーっ! 今何て言った? ちょっと、北村君!
あまりにもサラッと言われたから、驚いて言葉が出てこなくなった。
「さっきのご褒美、キスじゃなくていいから、名前で呼んでよ」
「え?」
「俺自分の名前あんま好きじゃないけど、愛唯ちゃんが呼んでくれたら好きになれそうな気がするし」
何それ。今度はなんか殺し文句のようなことを言ってきたぞ。やばい。免疫なさ過ぎて照れちゃうよ。
「何でそこで赤くなるの? もしかして脈ある?」
そういうことも聞いてこないで欲しい。マジで。
「ちょっとちょっとちょっと、ストップ。タンマ」
ああ、もう。少女漫画みたいなセリフばっかり、初めて聞いたんだけど。少女漫画苦手だから、普段あまり読まないけど、こんな感じじゃなかったっけ? 北村君、キザというか、絶対普通の男子高生じゃないでしょ?
もう意味がわからない。もしかしてこれがクリスマスマジックというやつだろうか? なんて今私が作った造語だけど。
「どうしたの?」
「甘いんですけど」
「へ?」
あなたの存在が甘いですとは言えなかった。
とりあえず落ち着こうと思って、私は何度か深呼吸をした。
「何やってんの?」
「あのね、そういうセリフがポンポンと出てくるの普通じゃないから。彼女いたことあるって疑われても仕方ないから」
「ははっ」
笑い飛ばしましたよ。奥さん? って奥さんって誰? また一人で暴走するところだった。
「とりあえず、お茶でもして落ち着かない?」
「う、うん」
私もこれ以上歩きながら話すのは落ち着かないし、心も落ち着かなかったので、大人しく言うとおりにした。
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