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「あんたがいいなら、俺には関係ないけど」
北村君が沙織に向かって言い出した。
「今度愛唯ちゃんを巻き込んだら」
「私はいいって」
沙織は私の言葉を制して言った。
「ごめんなさい。罠だって気付いてたけど、まさかここまではしないって高をくくってた。私が甘かったわ。愛唯も、巻き込んで本当にごめんね」
「そんなの」
私は全然気にしてなかったのに、上手く言葉にできなかった。
「ああ。はいはい。もういいよ。二度とこういうことがなければ」
「約束するわ」
「沙織」
「そんな顔しないの」
私はなんとも言えない気持ちになった。
「んで、この後始末は?」
「そこの男たちにやらせりゃいいんじゃない?」
沙織は事もなげに言った。
「それは賛成だけど、こいつら顔と名前控えとかないと」
「佐々木、金本」
今まで黙ってた羽山君が口を挟んだ。
「よく知ってんな」
「親父の職業柄、人の名前覚えるのは得意」
そういえば、羽山君のお父さん警察官なんだっけ。
「お父さん何をされてるの?」
沙織が羽山君に聞き出した。そのしゃべり方変なんだけど。
「警視だ」
え? そんな偉い人なの? 私だって警察のこと詳しくないけど、それくらいは知ってた。踊る大総裁選で見た。
「羽山、そんなことベラベラしゃべんなくていいって。親父さんの手下とか呼んでないよな」
「もう少し遅かったら乗り込むとこだったが」
「危ねえ」
やっぱり北村君は、羽山君と話すときと私と話すときの口調が違う気がする。
とりあえず警察沙汰にならなくてほっとした。
「そういえばもう1人」
私がとどめを刺した男が43番の部屋にいたのを思い出した。
北村君が部屋を出て走って行ったが、ものの数分で戻ってきた。
「くそっ。逃げられてた」
43番部屋はここの声が聞こえるから仕方ないかもしれない。
「あいつ聖だよ。間違いない」
沙織が言った。
「聖?」
「聖将貴。2Bの奴だな」
答えたのは羽山君だ。
「そう。そいつ。私が振ってやった奴よ」
「最初に沙織をホテルに連れ込もうとした?」
「愛唯、みんなの前で恥ずかしいでしょ」
つい口に出してしまった。私の悪い癖だ。
「最低だなその男」
北村君が顔をしかめた。
「そいつなら俺も恨みがある。しめとくか」
「そんな、悪いです。大したことないので」
さっきから沙織がおかしいと思った。特に羽山君に対して。
「恨みって?」
「俺が買おうとした購買のカレーパンを二つ買って独り占めした」
「そんな程度かよ」
「カレーパンは俺の血と肉なんだよ」
「はいはい。大げさだから」
北村君と羽山君が漫才みたいなことし出したので、笑ってしまった。
「カレーパン格別ですよね。私も好きです」
また変なことを言い出した沙織はほっておこうと思った。
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