事件は突然に

9/9

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
「あんたがいいなら、俺には関係ないけど」  北村君が沙織に向かって言い出した。 「今度愛唯ちゃんを巻き込んだら」 「私はいいって」  沙織は私の言葉を制して言った。 「ごめんなさい。罠だって気付いてたけど、まさかここまではしないって高をくくってた。私が甘かったわ。愛唯も、巻き込んで本当にごめんね」 「そんなの」  私は全然気にしてなかったのに、上手く言葉にできなかった。 「ああ。はいはい。もういいよ。二度とこういうことがなければ」 「約束するわ」 「沙織」 「そんな顔しないの」  私はなんとも言えない気持ちになった。 「んで、この後始末は?」 「そこの男たちにやらせりゃいいんじゃない?」  沙織は事もなげに言った。 「それは賛成だけど、こいつら顔と名前控えとかないと」 「佐々木、金本」  今まで黙ってた羽山君が口を挟んだ。 「よく知ってんな」 「親父の職業柄、人の名前覚えるのは得意」  そういえば、羽山君のお父さん警察官なんだっけ。 「お父さん何をされてるの?」  沙織が羽山君に聞き出した。そのしゃべり方変なんだけど。 「警視だ」  え? そんな偉い人なの? 私だって警察のこと詳しくないけど、それくらいは知ってた。踊る大総裁選で見た。 「羽山、そんなことベラベラしゃべんなくていいって。親父さんの手下とか呼んでないよな」 「もう少し遅かったら乗り込むとこだったが」 「危ねえ」  やっぱり北村君は、羽山君と話すときと私と話すときの口調が違う気がする。  とりあえず警察沙汰にならなくてほっとした。 「そういえばもう1人」  私がとどめを刺した男が43番の部屋にいたのを思い出した。  北村君が部屋を出て走って行ったが、ものの数分で戻ってきた。 「くそっ。逃げられてた」  43番部屋はここの声が聞こえるから仕方ないかもしれない。 「あいつ聖だよ。間違いない」  沙織が言った。 「聖?」 「聖将貴。2Bの奴だな」  答えたのは羽山君だ。 「そう。そいつ。私が振ってやった奴よ」 「最初に沙織をホテルに連れ込もうとした?」 「愛唯、みんなの前で恥ずかしいでしょ」  つい口に出してしまった。私の悪い癖だ。 「最低だなその男」  北村君が顔をしかめた。 「そいつなら俺も恨みがある。しめとくか」 「そんな、悪いです。大したことないので」  さっきから沙織がおかしいと思った。特に羽山君に対して。 「恨みって?」 「俺が買おうとした購買のカレーパンを二つ買って独り占めした」 「そんな程度かよ」 「カレーパンは俺の血と肉なんだよ」 「はいはい。大げさだから」  北村君と羽山君が漫才みたいなことし出したので、笑ってしまった。 「カレーパン格別ですよね。私も好きです」  また変なことを言い出した沙織はほっておこうと思った。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加