そして……

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そして……

 羽山君は用事があると先に帰ってしまった。その前に一言言われたけど。 「維之介ってちょっと無謀なとこあるから、愛唯ちゃん、くれぐれもよろしくね」 「はい」 「余計なこと言わなくていい」  北村君が口を挟んだ。 「ふふっ」  2人は仲が良いみたいで、会話を聞いてると面白い。私は沙織のように笑ってしまった。  そしたら、去り際にさりげなく羽山君に耳打ちされた。 「名前で呼んであげなよ」  私が羽山君の去った方を向くと、もう見えなくなってた。 「何今の? 愛唯、白状しなさい」 「え? ただその……」  私は北村君、じゃなくて維之介君の方を向き直った。 「今日は来てくれて、沙織を助けてくれてありがとう、維之介君」 「あ、ああ」  維之介君は驚いたようにぎこちなく返事をした。 「あ、あいつ……」  とぶつぶつと呟いた。 「何なのよ。もう」 「斉藤さんもそろそろ帰ったら?」  そう言ったのはもちろん維之介君だけど。 「さりげなく追い出そうとしてない」 「してる」  ちょっと、維之介君? 「別にいいけど、代わりにさっきの人紹介して」 「は?」  呆れたように維之介君が聞き返した。私は気づいた。まさかそれでさっきから沙織が変だったのだろうか。 「かっこいいじゃん」 「あいつ彼女いたと思うけど」 「えっ」  沙織はあからさまに残念そうな顔をした。 「なーんだ。つまんないの」 「沙織」  私は苦笑した。転んでもただでは起きないとはこのことかもしれない。 「はーいはい。邪魔者は退散しますよ」 「邪魔じゃないけど」  私が言うと、沙織も維之介君もため息をついた。 「愛唯、さすがに鈍くて北村君かわいそうだからね」 「同情しなくていい」  それって私が悪いってこと? 2人ともはっきり言ってくんなきゃわかんないし。 「また学校でね」 「うん。バイバイ」  沙織も帰って二人きりになった。 「愛唯ちゃん、羽山の悪知恵気にしなくていいからね」 「悪知恵?」 「名前で呼べとか言われたんだろ」  確かに言われた。でも、悪知恵じゃないと思う。 「私が呼びたいから呼ぶの。勝手でしょ」 「ま、いいけど。あんま期待させないで」  期待させてるわけじゃないもん。でも、こうやって二人きりになるのが嫌じゃないと思う。それが友達なのか、違うのかはまだわからないけど。
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