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「北村君って」
何でコミケにいるんだろうと思って聞こうとしたら、怒ったような女性の声が聞こえた。
「ちょっと、何こんなとこで油売ってんの? まだ片付けとか、挨拶回りとか残ってるのよ」
どうやら、北村君に話しかけているようだ。誰だろうと声のした方を向いた。
「まさかあんた、女の子ナンパしてたの?」
「違うって。たまたま知り合いが」
「ごめんなさいね。馬鹿な弟が何か失礼なこと」
「えーと」
確かに失礼だったけど、お姉さんに謝られるほどのことでもなかった。
「もううるせえな。たまたま会っただけって言ってんだろ」
「その話は後で聞くから。そんなことより手伝いなさい」
北村君はお姉さんに引っ張られていた。
「あーもう。しょうがねえな」
北村君はこっちに向き直った。
「ごめん。愛唯ちゃん。姉貴うるさくて」
「お姉さん?」
最初に弟と言っていたので、北村君のお姉さんなのはすぐにわかったが、一応確認した。
「サークルの手伝いに付き合わされてんの。エロばっかのBL漫画サークル」
「ちょっと、エロばっかじゃなくて、芸術的官能漫画って言いなさい」
それってどう違うんだろうと思った。
「何が官能だよ。ただの男2人の気持ち悪い変態じみた」
「維之介、それ以上言うと殺すわよ」
「だーもうわかったって。行くよ。手伝うよ」
北村君はため息をついて言った。
「じゃあ、またね。愛唯ちゃん」
北村君が去って、私はしばらく放心していた。
何がまたねなのか。そして、勝手に『愛唯ちゃん』と呼んでいるのか全く理解できなかったからだ。
そんな時は、ミキヤだ。気持ちを切り替え、ただ推しに浸ることにした。私は買ったばかりの同人誌と、描いてもらったスケブを眺めながら帰路についた。
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