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「そろそろ帰ろうか」
「愛唯!」
千郷がまだ話は終わっていないというように声を上げた。
「千郷、ごめん。私、千郷みたいになれないから」
「何で私みたいになる必要があるの?」
「だって」
うまく説明する言葉が出てこなかった。心配かけたくないのに、心配かける事ばかりしてしまう。
「千郷みたいに何でもうまく立ち回れれば」
「何でもうまくなんて、そんなことないし」
千郷がちょっと怒ったように言って、私は我に返った。
「ごめん。言い方が悪かった。千郷がうらやましいの」
私はため息をついた。
「そんな風に簡単に男子ともしゃべれて、引っ越しても友達多いし」
「そんなことないよ」
千郷は私の目を見て真剣な顔をして言った。
「私だって何でも話せるのは愛唯だけだよ」
そう言ってくれてすごくうれしかったのに、すぐに疑うようなことを言ってしまった。
「ほんとに?」
捲し立てるように更に言った。
「私より仲良い友達できてない?」
私は言ってから、しまったと思った。だから、千郷が返事を返す前に言葉を続けた。
「ごめん。こんなこと言う気なかったのに。千郷には新しい高校で目いっぱい楽しんで欲しいのに、私って心狭いね」
「愛唯」
「嫉妬したの。千郷の学校の友達に」
私は目を伏せた。
「ほんと私って駄目だね」
自分が情けなくなってきて、顔を上げられなかった。
「愛唯はわかってない」
「え?」
「私だって嫉妬するよ」
「嘘」
千郷がそんなことを言うなんて信じられなかった。
「私だって、愛唯がその北村君と付き合ったりして、私より仲良くなったらと思うと嫌だし、嫉妬もするよ」
「そんなことあるわけ」
私が即否定しようとすると、千郷は話に被せるようにして言った。
「わからないでしょ。絶対にないなんて言い切れないんだから。未来のことは誰にもわからないよ」
確かにその通りだと思った。千郷に自分より仲が良い友達ができるのは寂しいけど、それは未来のことで、そんなことは誰にもわからない。
千郷がそこまで言ってくれて、やっと決心できたのだった。
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