ツイてない日、だけど良かった日

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公衆電話を見つけた時は胸が熱くなった。 久しぶりに見たからじゃない。これで和之と連絡がとれるから。何回も来ている場所なのに、何で存在を知らなかったのだろう。 緑色の受話器を持ち上げて小銭を入れる。 テレフォンカードなんて持っていないし、財布に十円が入っていなかったから百円。 お釣りって出てくるんだっけ? と思ったけれど、今はそれどころじゃなかった。早く電話しなきゃ。早く…… 「まま、ぱぱにでんわしないの?」 指を動かさない私を、凜が不思議そうに見上げている。 「あー、うん。したいんだけど、パパの電話番号が分からないの。少し経ったら思い出すかもしれないから、あっちでジュースでも飲もうか」 凜の手前平静を装っているけれど、内心かなり焦っていた。一回家に帰るとしても帰宅ラッシュと重なっているから、いつもより時間がかかる。 なにより、長時間連絡が取れなかったら和之に心配かけてしまう。目の前に公衆電話があるのに何も出来ないなんて。 「まま、そのおかねちょうだい」 戻ってきた百円を上着のポケットに入れた時だった。凜が私に向かって手を伸ばした。 「ジュース買うの?」 「でんわつかってみたい」 「でも、ママ番号分からなくて……」 消防と警察を除いて覚えているのは時報ぐらいだと思ったけれど、よく考えてみたら117か177どちらだか分からくなっていた。記憶力は悪くない方だと思っていたのに。 「じぃじとばぁばのおうちもむり?」 ─────あ。
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