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立ち上る紫煙の先を眼で追う。
口元を手で覆うように吸う姿は、蠱惑的だ。どう足掻いても、藻掻いても駄目だと叩き付けられているみたいに思えてくる。
逃げられない、多分一生。
「……芽瑠」
「ンだよ」
「禁煙してたんじゃないの?」
「誰かさんが逃げるような真似したから」
「嫌味ったらしい」
首筋、鎖骨辺り。
沢山に散りばめるように付けられた噛み痕と赤い華を痛々しく刻まれている。
街で聴こえてくる話し声は何時も、芽瑠たちの噂が大半で少しだけ可哀想と同情を抱いた。
芽瑠というブランドも、恋に恋しているようなメルヘンな頭を持った女たちも、男の尊敬も全てが莫迦らしくて、どうしようもない程陳腐に思えた。
麗しい、目の前の男に手を伸ばす。
「芽瑠」
「何だよ、甘えん坊」
「嫌じゃないくせに……」
不貞腐れるように言えば、芽瑠は静かに笑った。
「ヒラリ」と甘い声は熱を孕ませる。情事の後だけ、甘やかしてくれるところは好き。甘える私の為に、まだ新しい筈の煙草を灰皿に押し付けて来てくれるから。
ギシリ、とベッドが微かに軋む。
「お前の全て、食べられたらいいのに」
「……骨の髄まで?」
「嗚呼、そうかもな」
右耳に噛みついた芽瑠の首に手を回せば、二人、ベッドに沈み込んだ。
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