旅立ち

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それは星が降ってきそうなほどの満天の夜空だった。 この国の星空は恐ろしく美しい。 「タキよ 主は日本に行くらしいなぁ」 キリア大僧正は独り言のように呟く。 「ああ 日本でらしきものが見つかったから調査に行ってくる。」 タキと呼ばれた耳の潰れた屈強な男が応えた。 「深淵か… そりゃまた豪気なものが出てきたのう」 老人はカッカッカと妙な笑い声を漏らした。 「日本は久しぶりじゃろう? ゆっくり思い出にでも浸ってくればいい。」 「日本は生まれ故郷ではあるけど コッチの生活の方が全然長いからなぁ… 思い出といっても余り実感が湧かない かな? もう俺が知っている物は何も残って無いだろうし…」 「そうか… 日本には、どのくらい行く?」 「1年程…」 「タキが帰って来る頃にはワシはもう居ないかも知れんなぁ。」 齢100を超える大僧正は続けた。 「話をするのもコレが最後じゃな」 そう言うと、またカッカッカッ笑った 「キリアがいないと寂しくなるな…」 タキは大僧正が、寺院にきたばかりで よく泣いていた小さな時を思いだしていた。 「主には、小さい頃よく遊んで貰ったな 感謝している。 主は人を見送るばかりでツライな」 「もう慣れた、 寂しくはあるが悲しくは無い… それが自然の摂理だ。 俺も不老ではあるが不死ではないし 人魚の呪いも、いつ切れるのかわからない…」 幼いキリアが寺院にきた日から、こんな日がくる事はわかっていた。 どんどんと大きくなり、自分と並び、そして自分を追い越し老いていく。 もう幾度となく体験した事だったが、 親しい者のソレは、いつもより余計に過ぎ去った時間を感じ、寂しかった。 あの泣き虫が、まさか大僧正にまでなるとは予想外だったが… 「ワシは自分の悲願だった大僧正になった タキがいつか息子に会える事を祈っている それが主の悲願だからな」 「ああ 見つかるといいな」 タキはキリアを抱きしめた… 満天の星空は潤んでいた。
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