遠地より

1/1

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

遠地より

渓谷に張り付くように、仏教風の寺院が群立する。 コレらの寺院は今でも現役で使用され、僧侶達の修行が行われていた。 元々は仏教から派生した宗教だった。 切り立った山々に囲まれ、周囲から断絶された環境からガラパゴス化した教えは 独自の教義を発展させ、仏教とは似て非なる物に昇華させた。 周囲を大国に囲まれたその国の面積は、四国ほどの大きさだったが、国連にも加盟するれっきとした独立国家だった。 国の1番の産業は観光で、世界遺産にも登録されている寺院群を目当てに、多くの外国人観光客が毎年この地を訪れていた。 それがこの国の表向きの顔だった。 この国が要人の暗殺を生業にしている 事実は、関係者なら誰もが知る公然の秘密だった。 暗殺といっても暗殺部隊を外国に送り込んで事を成すのではない、僧侶達の祈祷により秘密裏に呪殺するのだ。 人口衛生が地球を周回し、ジャングルの奥地に住む人達がスマートホンを使う時代に呪殺? と普通の人は考える。 この世界では、たとえ人を呪っても国際問題にはならない、だからこそこの国の産業は成り立っていた。 公の国連の会議場で、あの国は人を呪い殺すから制裁を求める、なんて言えば物笑いのタネだからだ… 信じるか信じないかは個人の見解だが、そんな心理戦を駆使して、暗殺したい人間と、暗殺されたくない人間、その狭間で両方から金と領土の保全をせしめて、この国は何百年も生き延びてきた。 そんな国で呪殺を管轄する密法研究庁には1人の日本人がいた。 耳が潰れて腕が太いゴリラのような男 いつも仏のような微笑みを浮かべたその男はずっと1人の人間を探していた。 何百年も…
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加