契約

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契約

比葉は命をかけて私を守ってくれると言ってくれた… 「申し出を受けてくれてありがとう ここでは何だから、休みの日に一緒に ご飯でも食べながら話をしない?」 と声をかけると、彼女は顔を真っ赤にして喜んでいた。 純粋で素直でいい娘だった… 私は、これから彼女を自分の身勝手な都合で傀儡のようにしてしまう、と思うと気が滅入った… 約束の日、比葉とレストランが入るホテルで待ち合わせをした。 会社以外で彼女に会うのは初めてで 私服の彼女は新鮮だった。 カジュアルフレンチのお店は週末のせいもあり混んでいた。 ワインを飲みながら予約したコース料理を2人で食べる。 料理は評判通りどれも美味しく酒が進んだ。 ワインが回ってきた比葉は、人の急所について熱く語った。 芙美は、なかなか個性的な話題だなと感心した、一般人とは着眼点が違う。 私は人並みに妹の月子の話をした。 コースにはエスカルゴが付いていて、 比葉は初めてです… と恐る恐る口にする。 「美味しい…」と比葉は呟いた。 「何でカタツムリなんて食べようと思いついたんですかね?」 「人は強欲なのよ、 美味しいとわかれば、たとえ見た目がグロテスクだろうが、毒があろうが食べずにはいられないの。 フグの調理法が確立されるまで、いったい何人が死んだと思う? 睡眠に食欲に性欲、生きている以上は、 本能から逃げる事は難しい。 本能に従えば、大切な物を失うような 悲劇的な結末が訪れる事がわかっていても止められないのが人なのよ。 フォアグラのように力のある者の満足の為に、弱者は虐げられるの… 強者の正義は弱者の悲劇ね。」 私は私自身に対して、この台詞を吐いたのかも知れない。 罪を重ねながら、その歩みを止められない自分に… あの日、教祖の蛇口を開いた日から全ては決まっていた。  いや、私に蛇口が見えた時からかも知れない。 そんな事を考えながら、私は比葉の蛇口を少しだけ開いた。 私にしか見えない蛇口から、私にしか見えない比葉の命の水が流れ出した。 何度見てもソレは見とれてしまうほど綺麗な水だった。 私はグラスの残りのワインを一気に飲み干した。 「部屋をとってあるから、最後の話はそこでしましょう。」 芙美は微笑む。 「その前にデザートね  ここのチョコスフレは絶品よ。」 甘いものは別腹だった。 食事を終えホテルの一室に2人は移動した。 比葉はワインを飲み過ぎた事を後悔していた。 身体が火照る… 部屋に向かうエレベーターの中で比葉の頭の中はひとつの感情しかなかった。 芙美を食べたい。 比葉は部屋に入るとすぐにベッドに芙美を押し倒した。 躊躇もなく、善悪の判断もそこにはなかった。 強引に服を脱がすと、その体にむさぼりついた。 芙美の体は 先程食べたチョコスフレよりも甘く 比葉はその味に酔いしれた。 甘美な一夜が明け、比葉が目を覚ますと 芙美はもう既に身支度を整えていた。 芙美はいつもの水上常務の顔で私に言った。 「比葉 真里 アナタの使命は、私の夫 水上司から 私の命である 水上月子 を守る事… コレは契約よ」 芙美は比葉と契約を結んだ。 本当は契約など必要ない。 蛇口を開いた時点で比葉に選択肢が無い事はわかっている。 もしそれが事実だとしても、契約はお互いに五分五分の関係を保ちたいという芙美の矜持だった。 比葉には手を汚して貰う代わりに 私は比葉に尋常では無い快楽と充足感を与える。 ただそれだけと、芙美は自分を納得させた。
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