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比葉の憂鬱
水上常務が今まで見たこともない表情で
「命懸けで私を守れる?」
と聞いてきた。
あの日の出来事は、全て自分の妄想か幻覚だったのではないかと思うほど非現実的な感じがした。
水上常務は以前と変わらず私と接し、いつも通りテキパキと仕事をこなしている。
気がつくと無意識に常務にみとれていた
昔、比葉は武術の師匠に言われた。
「真理の拳にはいつも殺気がこもってるなぁ…
相手をするのが怖いくらいだ。
コレは相手を殺す為に作られた技術だけど使ったら捕まるからね」
と冗談まじりに、からかわれた。
比葉に一から格闘技を教えてくれた父親のような存在だった。
格闘家なのにいつも菩薩のような笑みを浮かべた温厚な人だった、彼が怒りを露わにしたのは後にも先にも一度きりだった。
師匠は多分知っていたのだ…
私が男を怖い事を
その恐怖から逃れる為に必死に格闘技で高みを目指している事を
絶対に殺したい相手がいる事も
水上常務も何かに怯えているのだ、あのいつも見ている自信に満ちた爽やかな笑顔の下で…
私の中で今まで抱いた事のない感情が生まれていた。
芙美を傷つける者は誰も許さない…
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