報告

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コチラに戻ってきて2日が経った。 姿見に写る息子の渡は3年前よりも格段に背が伸びていた。 大きくなったなと言いたいところだが、コレが今の自分自身の姿だった。 そして左眼は蒼く染まっていた。 と呼ばれる蒼い瞳は、一族に稀に現れる特異体質だった。 もっとも何百年も前に一族は一人残らず 滅亡してしまった… 感傷に浸るのは後にして、私は実務に取りかかる事にした。 奥村に「兎を呼んでくれ」と声をかけた 予定の時間通りに班長の佐藤がやってきた。 「お帰りなさい 教祖… と言っても私には渡様にしか見えませんが…」 「佐藤にも迷惑をかけたな… 協力に感謝する。」 佐藤は微笑んでいたが、内心は中身が本物か疑っていた…佐藤らしい反応だった 「取り急ぎ、例の村の買収の件ですが、既に完了しております。  教祖がお亡くなりになった後も予定通り計画は進行中です。 まずはどの件からお聴きになりたいですか?」 「まずは仁科芙美について聴きたい。 芙美はまだ生きているのか?」 「仁科芙美は、あの火事の際に他の巫女と共に警察に保護されました。無事です。」 「今はどうしてる?」 「両親は教祖が亡くなられた後、殉教されたので今は父方の祖父母に引き取られています… 大変いい難いのですが、芙美は女の子を産みました。  渡様の腹違いの妹にあたります。   教祖にはお心当たりがあるかと…」 「わかった… 今後、芙美とは接触を控え動向だけを監視しろ。」 「心得ています。 教祖が燃やされてしまう位ですから… 私達の手に負える相手じゃないですよ 今までも遠くから眺めているだけです。」 佐藤は神経質そうに眉をひそめながら話しを続けた。 「アレは自殺では無かったんですよね?」 どう答えていいか言葉に詰まった… そして芙美が子供を産んだ事実は、さらに私を混乱させていた。 「楽園の建設は引き続き急いでくれ… 最重要事項だ。 すまない 今日は気分が優れないので、また別の機会に続きの報告を頼む… 一人で少し考えたい」 佐藤はそうですか…と言うと立ち上がった。 佐藤は最後に一つだけお願いします。 あくまで個人的な興味なんですが… と前置きすると 「神には会えましたか?」 と神妙な面持ちで聞いてきた。 「神など今まで一度も見た事はない。 私ごときでは何回死んだ所でお目にかかる事などないだろうな。」 と笑って答えた。
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