魅惑

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魅惑

その男は といった。 今日も来ている… 芙美は半ば呆れて、離れた席から男を見ていた。 男は週に2回ほど店にやって来ては、馴染みのホステスをはべらし飲んでいた。そしてたまにお持ち帰りもする。 芙美はこの世界に入ってから4年がたっていた。 [能力]のおかげで生活に困る事は無かったが、同僚からは枕営業と陰口を叩かれているのは知っていた。 私には幼い頃から蛇口が見えた。 ソレは私にしか見えない幻の蛇口だった 私が中学生の時に、初めて蛇口を全開に開いた男は、私を犯した後、目の前で暖房用の灯油をかぶると自らに火をつけた。 何故なら私が男に死んで欲しいと望んだから… たぶん私が男を殺したのだ。 成長と共に私は少しずつこの[蛇口]の 使い方を学んだ、蛇口は開き過ぎてはいけない… 少し開くだけで十分だった。 相手は私に夢中になり快楽に溺れた 相手は私を求め、私はそれに応じた… 好きでもない相手と寝るのは苦痛だったが生活の為の仕事と割り切っていた。 ただ蛇口から流れ出る幻の水はまるで 命そのものように美しく、私は嫌な事から目を背けるように相手のソレを眺め続けた。 教祖に家族を奪われ、穢された私には絶望しかなかった。 ただひとつの希望を除いて… もしこの蛇口がただの私の妄想だったら… 教祖は私のせいではなく、勝手に自殺しただけなのだとしたら… 私はもう少し楽になれるのだろうか? (水上 司)には蛇口が見えなかった。 この男は女性に性的な興味が無いのだろう。 にも関わらず席に着くだけで3万も取られる高級クラブで月に100万近くも使っていた。 たぶんこの男は世間を、もしかしたら自分自身をも欺いて生きていた。 不毛な生き方だと感じたが、自分の事を考えれば、似たり寄ったりの生活なのかも知れない。 早く帰って月子の顔が見たいと思った。 私はあの子の為にだけ生きていた… 病棟から月を見上げたあの日のように 自分の存在理由を他に見つけ出す事が、まだ私には出来ていなかった。
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