水族館

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水族館

休みの日だったが、いつもと同じ制服姿で約束の時間ピッタリに、水上月子は待ち合わせの場所に現れた。 中村アキは月子の姿を確認した時、正直ホッとした。 水族館に誘った時、ずっとそっけない返事ばかりだったので、本当に来てくれるか不安だったからだ… 水族館の最寄り駅の前 「じゃあ行こうか?」 声をかけると月子はコクリと頷く、2人で水族館に向かって歩きだした。 綺麗な娘だなと、改めてアキは月子を見て思った。 白く透き通るような肌に、スッと通った鼻筋、サラサラの肩までの漆黒の髪は日本人形のようだった。 完璧な月子を見ていると、左手が欠けた自分は何とも不恰好で、不釣り合いに思えた。 まだ左手があった頃は、たまに女の子と遊びに行く事もあったが、釣り合いなんて考えた事もなかったなと、少し悲しくもなった。 ほとんど会話も無いまま館内をあちこち見て周り、大水槽の前のベンチに座った。 大水槽があるホールは薄暗い、大水槽は中からライトアップしているため、暗闇の中で水槽が綺麗に浮かびあがる。 20種類以上の魚達がブルーの水槽の中で回遊する様子は神秘的な美しさだ。 暫く水槽を眺めていると突然、月子が口を開いた。 「私、左手のあった頃のアナタより、今のアナタの方が好きよ」 「 ? 」 言葉の意図がわからずアキは、いぶかしげに月子の方を視線を移す。 「えっ 何それ? コスプレ?」 アキは思わず声を上げる。 水槽のライトに照らされた月子の左眼は蒼かった… 「小学生の時から原因不明の病気で オッドアイなの… 普段はカラーコンタクトで誤魔化しているんだけど気持ち悪いでしょ?」 月子はアキに蒼い左眼を見せるためコンタクトを外していた。 アキは首を横に振った。 「綺麗 もっと近くで、見せて…」 無表情の月子の瞳を再び覗き込む。 ソレは深い深い、底が見えない程の透明な井戸を連想させた。 月子がそっと両手でアキの頬を手で拭った… その手は冷たい 月子の行動にアキは驚いたが、その時 初めて自分が涙を流している事に気がついた。 アキといる時の月子は本音しか言わないような気がしていた。 だから… たぶんアキは嬉しかった。 月子に今の自分の方が好きだと言われた事が… 自分でさえも好きになれない自分を月子が認めてくれた事が… アキの心の中にある葛藤が、ほんの束の間だけ姿を消した。 月子は右手をアキの頬に当てたまま、髪をかき上げると耳にかけた。 そして、ゆっくりと顔を近づけるとアキにキスをした。 ソレはアキの頬にある手と同じように、ヒンヤリとした柔らかい唇だった。
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