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1.再結成
そっと伸ばした左手の人差し指が、かさりとした質感に触れる。
これにする? それともそっち? よし、決めてしまえ。
「えーと、三番でした」
「三番、宮本……っと」
むっつりと頷いた担任のはっしーが、黒板に書かれたあみだくじの右から三番目に、わたしの名前をかつかつ刻む。
いそいそと席に戻ると、さっそく隣のまいまいが肩を寄せてきた。
「結局あみだくじとか、どうなの」
「くじは嫌だけど、前に出て班長同士でじゃんけんして取り合うよりは、まあ」
「私は自由に決められた方がいいって思っちゃうけど。なっつんはそういうの苦手だもんね」
はっしーが背を向けているのをいいことに、まいまいはうんと伸びをした。
班長は、それらしく振るまえる人を選びました、なんてしれっと宣言したはっしーが、わたしたちには何の相談もなく、適当に決めてしまった。
おかげでわたしは、全然それらしく振るまえる人ではないつもりなのに、その内の一人に選ばれたのだ。
班長候補の一人として、宮本菜月と呼ばれなれないフルネームを高らかに呼びつけられた時は、一瞬だれのことだかわからなかったくらいだ。
わたしはあんまり前に出たい方ではないし、向き不向きでいえば、どう考えても他の人の方が向いている。
それこそ、隣で伸びをして、自由に決められる方がいいと頼もしい笑顔を見せてくれる、まいまいとか。
「まあ、男女それぞれ自由に決めていいだけマシなのかな。全員くじ引きだったら、修学旅行やめたくなっちゃう」
黒縁の眼鏡の奥で、大きな瞳が好奇心に揺られてあちこちに動く。
どの班がどういうことになっているのか、まいまいならもしかしたら、すでにほとんど知っているのかも、とさえ思ってしまう。
かわいくて、勉強も運動もできて、それを鼻にかけることもなく、さばさばしている。
須賀麻衣といえば、大抵の子が知っている、学年中の人気者。
まいまいが修学旅行をやめたりしたら、残念がる子がたくさんいるなと考えて、自分もその一人であることに気づいて恥ずかしくなる。
それから、少しいじわるな質問を思いついて、わたしもまいまいに肩を寄せた。
「じゃあ誰とだったら、行きたくなっちゃう?」
まいまいは、少し首をかしげて嬉しそうに歯を見せた。
「男子でってこと?」
「男子でってこと」
少しどきどきしながら、私もくすくす笑う。
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