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2.黄金時代
小学校三年生の夏、わたしは魔法使いになった。
その頃から仲の良かったまいまいと、たまたま近所の大きな公園に出かけて、Tシャツと半ズボンで駆け回る勇者ご一行に出会ったのだ。
ご一行とはいっても、メンバーは陽斗と一樹の二人だけで、世界を救うというよりは、冒険に出たばっかりという感じではあったけど。
「メンバーが足りないんだ、お前ら入れよ」
出会った時点で泥だらけだった自称勇者の陽斗が、とても仲間を探しているとは思えないとがった口調で、声をかけてきたのが始まりだ。
「ごめんごめん、勇者とかはこっちで適当にやるからさ。よかったら一緒に遊ばない? ちなみに僕、戦士らしいんだけど」
似合わないよね。へらりと笑った一樹は、この頃はまだ小さくてひょろひょろしていた。
「そうだな、須賀はなんかそれっぽいから回復。宮本は魔法使いってことで」
「は? まだ入るって言ってないんですけど。しかも何、回復って。なんか嫌だ」
「あはは。わたし、魔法使いだって。ワンピースが黒だからってこと?」
「ちょっとなっつん、やめてよ。なんで喜んでんの」
雑な配役に文句を言いつつくすくす笑って、なんだかんだと口喧嘩しながら、あっという間に仲良くなったわたしたちは、その日だけ、男子二人の子供っぽいごっこ遊びに付き合ってやろうということになった。
結局そのまま、ひと夏まるまる夢中になってしまったのだけど。
魔王の城を偵察に行くといって、夏休みの学校に忍び込んでみたり。
レベルを上げて強くなるといって、公園の端っこでオンライン通信を繋いでゲームをやったり。
幻の武器を手に入れるといって、何故だかプールで遊んだこともあった。
小さな冒険のひとつひとつが、すごく楽しかったことを覚えている。
とはいえ、そう何年も勇者や魔法使いとして駆け回っているわけにもいかないもので。
小学校を卒業する頃には、パーティは自然消滅。
陽斗と一樹は、男子の中では仲のいい友達に落ち着いた。
少しだけ残念な気持ちはあったけど、それはそれ。
猫じゃらしを片手に、今ではとても再現できない振付けで、あまり真剣に思い出したくないフレーズの魔法を唱えていた過去なんて、そっとしまっておける方がいい。
「宮本ってすげえな。ある意味、魔王の素質あるんじゃね?」
当時、陽斗がちょっと引きながら放り投げてきた台詞だ。
上機嫌な魔法使いから急降下して大泣きしてしまったわたしは、全員にちゃんと魔法をかけるまでやめないと言い放ち、三人を横一列に並ばせて、存分に猫じゃらしを振るったのだった。
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