2.黄金時代

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 もちろん、同じような話は三人にもある。  陽斗は蜘蛛が大の苦手で、公園で見かけるような小さな蜘蛛でも、大げさに怖がって距離を取るほどだった。  ある時、ちょうど顔の位置にある蜘蛛の巣に気づかず、真正面から突っ込んでしまった時は大変だった。  威勢のいい勇者キャラをあっさり捨てて、顔面蒼白で固まってしまい、三人で慰めながら蜘蛛の巣を払ったのだ。 「俺、もっと強くなるから。今度は絶対、お前らを守ってみせるから」  べそをかきながら、自分のキャラを思い出してそんなことを言う陽斗がおかしくて、まいまいとふたりでかわいいとはやし立てて、思い切り怒らせたのはいい思い出だ。  一樹は当時泳げなくて、プールに行ってもみんなに手を引いてもらって、おっかなびっくり遊んでいた。 「もういいんだ。僕は一生、陸で暮らしていく覚悟が今日できたから」  練習の甲斐あって、少しだけ水に慣れてきた頃、調子に乗ってちょっとしたスライダーに突撃したあとの台詞がこれ。  こんなことを言ってすねていた一樹が、今では水泳部のエースなのだからわからない。  今でこそ、はっきりした性格で、頼れる雰囲気のまいまいにも、もちろん黒歴史は存在する。  まいまいは、回復というポジションを自分なりに解釈した結果、右手をまっすぐあげて、小指をぴんと立てる謎のポーズを開発した。回復のポーズだ。  四人で行った夏祭りで、まいまいが一人だけはぐれて大泣きしたことがあるのだけど、わたしたちが彼女を見つけて駆け寄った時、まいまいは回復のポーズをとっていた。  はぐれた申し訳なさと、再会できてほっとした気持ちと、まいまいが一生懸命に自分を回復させていたことにこみ上げる笑いとがごちゃまぜで、本人以外の三人は、それはもう大変だった。  そんなわけで、わたしたち四人は、お互いがお互いの黒歴史を知っている。  大切な友達であると同時に、ひっそりと身を隠して生きる、元勇者ご一行なのだ。
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