乙女椿という女

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乙女椿という女

 小窓から差す朝の光が、白い肩を照らす。 黒子(ほくろ)一つないその滑らかな陶器のような肌に、白に紫を一滴垂らしたような色の着物をかけると、乙女椿は立ち上がった。  傍らに寝ていた男が、彼女の長い黒髪を掴もうと無骨な腕を伸ばしたが、すべらかなその射干玉(ぬばたま)は、風に乗るように彼の手から逃れてしまった。 「もう行くのか。乙女椿よ」   男は喉を鳴らす。一枚の布団から出した半身は色黒で、筋肉を纏い、朝日を受けて、その健康的な肩甲骨がより立体的に見えていた。  乙女椿は赤い帯をゆるゆると腰に巻きながら、首だけを後ろに向け、口角を上げた。昨夜、幾度も男と合わせたというのに、その唇から紅が消えることは無かった。  髪を結い上げ、簪で纏めると、うなじを一度だけ、とん、と手で横で叩く。  そうして後ろを振り返らずに、彼女は閨の扉を開けて、いつもの日常へとまた帰っていった。 ——次の男を仕留めるために。
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