21人が本棚に入れています
本棚に追加
言葉通り、名の通った武将にしては、こじんまりとした屋敷に到着し、私は、少しほっとした。大きな屋敷であったら、気後れしてしまうであろうし、それだけ、使用人もいることだろう。
勤めていた御屋敷では、皆と、上手く行ってなかった私は、なるべく、人と、関わりたくないという思いもあったのだ。
なぜか、屋敷は、城下──、街から随分と離れた場所にあった。
「これが、私の側付きだ。よろしく頼む」
私を白龍から下ろすと、迎えに出てきた老夫婦に、男、いや、趙雲様は告げた。
「足りないものは、二人に言えばよい」
言うと、再び白龍にまたがり、趙雲様は駆けて行った。
「ほら、裏の里山。あそこに池があるのですよ。その為、旦那様は、お住まいを、ここに定めているのです」
老人が言う。
「そこには、霊泉水が、涌き出ていて、沐浴すると、不思議なことに傷が癒えるんでね、白龍のお気に入りなんだよ。遠出をした後は、必ず、連れていけと、旦那様を、困らせる。実を言うと、そこを見つけたのは、白龍でねぇ……」
老婆が、得意気に話しだした。
見かねたかのように、老人が、おいおいと、諭すと、老婆は、さてもさても、お喋りが過ぎました。と、私へ微笑んだ。
「そうだ、お疲れでしょう。お前様」
「……お前様……」
「ええ、ここでは、旦那様の命で、名を呼ばないのですよ。きっと、もしも、の、事を考えて……。そして、ここの者達は、皆、私らの、遠縁ということになっております」
「何も、そこまで、気を使わなくとも、旦那様ときたら、心配性で、ですから、奥様とは、お呼びできません。どうぞ、ご勘弁を」
老夫婦は、私へ頭を下げた。
「ああ、頭をあげてください」
恐縮する私に、二人は、妙に嬉しそうにな顔をした。
「いや、旦那様が、側付きの女を連れてくると言い出した時は、ひやりとしたもんです。こりゃあまた、狐狸妖怪の仕業にはまってしまわれたのかと思いましてね」
「ほんに、ほんに。あの堅物の旦那様が、いつの間に女など」
おい、と、老人が、老婆を戒める。
「あれ、あたしときたら。なんだか、嬉しくてねぇ。また一人、孫が増えると思うと、お前さん、楽しいじゃあないか」
「孫って……こちらは、違うだろう?」
「いいえ、そうしてください。私は、ただの田舎育ち。学もありません。せめて、旦那様の足をひっばらない様に勤めたいと思っております。ですから、お二人の孫にしてください。そして、お前、と、呼んでくださいまし」
最初のコメントを投稿しよう!