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私は二人に、頭を下げた。
やはり、趙雲様は、皆のことを考え、万が一の事を考え、使用人ですら、見知らぬ者と扱っているのだ。
そして、私は──。唯一側にお仕えする、女、だった。
老夫婦の言葉に、全てを知った私の中に、決意のような物が沸き起こっていた。
それほどまでに、家族、を、守ろうとしている人がいる。その人は、私を選んで側に置いた。だから、私はその人の思いに応えよう。
名も無き妻として、あの人を支えようと──。
「変わったお人だろう?ただね、ここの者は、皆、敵に攻めこまれ、命からがら逃げ延びた者ばかりなんですよ。本当に、着の身着のままで、誰にも頼れず、ほとほと困っていた時に、旦那様に出会った。そして助けて頂いた」
苦渋の顔で、語る老人の横では、老婆が、うなずいていた。
そうか、ここの人達は、皆、戦に巻き込まれ、恐ろしい思いをしてきた。だからこそ、趙雲様のお心遣いの意味が、わかるのだ。
「旦那様、など、仰々しい呼び方は、やめろと言っているだろう!」
良く通る声がした。白龍にまたがる、趙雲様が、不機嫌そうにこちらを見ていた。
白龍はというと、機嫌良く、前足を小刻みに踏み鳴らしている。身体からは、ほのかに、湯気が上がっているから、裏山の霊泉水が涌き出る池へ、行って来たのだろう。
「あー、もういいから、白龍を、頼む。藁でしっかり水気を脱ぐっておいてくれ」
またがる白龍から、降りた趙雲様は、老人に手綱を渡した。
「ああ、腰が痛い。悪いがね、お前、婆の変わりに、旦那様の、お着替えの手伝いを頼めるかい?」
「き、着替えなど、一人で、出来る!」
「って、仰られても、そういう訳には。この子にも、しゃんと、仕事を覚えてもらわなきゃ、なりませんからね!」
あー、痛い、おー、痛いと、ぼやきながら、老婆は拳で、少し曲がった腰をとんとん、叩くと、奥へ消えてしまった。
「まったく……あの婆さんは……」
思わず、くすりと笑った私に、趙雲様は、はっとして、
「あ、ああ、このまま立ち話もなんだ、私の部屋へ来てくれ」
と、少しうつむき加減で言った。
私は、その時、ずっと、屋敷の門前で、老夫婦と話していたのだと気がついた。
「も、申し訳ありません!」
お屋敷の門前で、立ち話など持ってのほか。私は、慌てて、趙雲様に詫びをいれた。
「なにか……私は、やらかしたのだろうか?どうも、屋敷暮らしには、なれなくて……」
と、また、眉尻をすこし下げる、あの困った顔を趙雲様は、私へ向けた。
「い、いえ、何もございません。こちらのことです」
「そうか」
とだけ、答えると、趙雲様は、踵をかえした。
私は、門を潜る、その広い背中を追ったのだった。
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