趙雲の名も無き妻

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「女子供は、足手まといになります」 きっと、そうゆうことでしょうと、私が言う。 「たった、それだけのことでか?そもそも、足手まといになるとは、誰が決めた?しかも、見捨てたのは、正当なる、漢王朝の血を引く、劉備様のご嫡男。次世代の皇帝となるお方ぞ?」 と、趙雲様は、何かに逆らうよう答えた。 ──そうして。 たまらず、趙雲は、救出に出たという。無事に、二人と遭遇できた趙雲は、そのまま保護して、皆と合流したのであるが、逃げる策を講じる事に集中している劉備達には、妻子の無事など、目に入っていなかった。 何よりも、まだ、追っ手が来ると、自分達だけで、逃げようとしている有り様を見て、趙雲は、怒りを覚えた。 「逃げて、命を守る事も、分かるが、この先の代を継ぐであろうお子を、そして、育て上げる役目をおう母君を、ぞんざいどころか、再び、見捨てようとした。私は、我慢ならず、民を見捨てるのは、忍びないと言われておきながら、自からの、家族は、あっさりと見捨てられる。しかも、嫡男。この、お子が将来、あなた様が、忍びないと感じた、民を守ることになるのではないのですか。それを、国のためと称して!」 そう、言って、逆らってしまったのだよ。仮にも、支える、いや、命をかけてお守りしなければならないお方に向けて。 と、趙雲様は、恥ずかしそうに言った。 「確かに、昔から、妻子は衣服のごとし、と、言いますもの。殿方にとっては、新しい衣服に着替えれば良いだけの話、だったのでしょう」 「それで、お前は、よいのか?」 「……私も、足手まといには、なりたくありませんから……」 「同じく、見捨てられても、文句はないと?」 「……それは……」 私の頬を、つと、涙が流れた。 見捨てられたくはない。けれど、それで、もし、趙雲様のお命に危険が及ぶのならば……。私は、進んで……。 ゴツゴツとした、節太い指が私の頬を沿う。 「私は、嫌だ」 立派になって、お前を迎えに行こうと決めていた。そして、その時が、来たと思えば、趙雲の妻であり、家族であるがゆえに、危険が及ぶかもしれぬ事を、知らしめられた。 「だから、共に生き延びる為にも、お前は、誰のものでもない、名も無きただの民であって欲しいのだ。されど、どうか、私の物だけでいて欲しい……。嘘偽りなく、そう想っている」 あっと、思った瞬間、私は、趙雲様の腕の中にいて、寝台に押し倒されていた。 そして、まるで、この方の志のように熱く燃えたぎる口づけを、受けたのだった。 こうして、私は、名も無きただの、使用人として、趙雲様の御屋敷を守ることになる。 そして、子供にも恵まれ、今は、三人目を身籠っていた。 折しも、南方征伐とやらで、趙雲様はご出陣されている。 何処で、どのような争いに参加しているかは、私には、詳しくは知らされず、私は、無事にお戻りなさるのを待つしかなかった。 なぜなら、あくまで、私は、ただの、使用人。そして、あの方の、名も無き妻であるのだから。 (了)
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