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肩を怒らせ歩む孔明を、出迎えるかのように、武将が一人、回路に佇んでいた。
その姿を確認した孔明は、すぐさま愚痴った。
「やられたよ。あの姫君に」
「……はあ」
「その返答。もしや、そんなにも、見られたもんじゃないとか?!」
言って、孔明は、顎髭を確かめるように触った。
「なんと、申しますか、少し、涼しげな感じがいたします」
「その、肩の揺れは、なんですか!仕方ないでしょう!槍ですよ!いきなり!」
「ですが、戦場では、いきなり、矢が飛んで来ますし……」
「確かに、そうかもしれませんがね、ここは、戦場ではなく、居城ですよ。住居ですよ!まったく」
苛立つ孔明に、待機していた武将、趙雲は、笑いを噛み締めながら押し黙った。
「うーん、趙雲、あなたが、そこまで笑いを堪えるということは、他の者には、刺激が強すぎるということになりますねぇ。仕方ありません。車を出してもらえますか?本日は、もう、ここまでです」
「お戻りになられると?」
「はい、我が屋敷には、最強の策士がおります。少しばかり、お知恵を拝借しようと思いましてね……」
「なるほど!それが良い!」
「趙雲、それが良いとは?あなたに言われると、なぜだか、私、落ち込むのですけれど」
「い、いや、私は、別に……」
まあ、いいでしょう。と、孔明は、少し憮然としながら、犠牲になった顎髭を隠す為か口元に袖を当てた。
──そして。
孔明と、ひと悶着あった、姫君の部屋は、妙に色めきだっていた。
「なっ!!お前達!なんという格好をしている!」
主人である、姫君、孫朗は、侍女達の変貌に驚きを隠せないでいる。
頭に来た!寝る!と、押しかけてきた孔明の態度に、寝台でふて寝している間、侍女達は武装解除し、女に、戻っていたのだ。
「孫朗様も、尚香、の名をお使いなされませ」
年長の侍女が言う。
「なぜだ?あのような、女々しい名を。私の本名は、朗、ではないか。それを、俗名の尚香など……、まて!お前達!私を裏切りおったなっ!!」
孫朗の脳裏に、孔明が口にした、女の魅力、美しい、などなど、妙に、女、女、と、押し付けるような言葉が甦っていた。
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