罪悪の想いを貴方へ(前編)

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罪悪の想いを貴方へ(前編)

何も、何も無いこのまっさらな世界を私は歩き続ける。 「おい、シオン。次の街はまだなのか?」  私の頭の上に乗る謎の生物『スティマ』は、歩いてもいないのにそんな事をぼやいている。こいつをぶん投げてやろうと思ったが、またグチグチ言われるかわからないからやめた。 「俺は疲れたぞー、頭の上に乗ってるのも疲れるんだ早く休みたいぞー」  それはこっちのセリフである。スティマは体重はほぼ皆無だが頭の上に乗られるとめちゃくちゃ邪魔である。 「うわっ、頭の上で暴れるな。多分もうすぐ着くから待っててよ。」 「言ったな!?着かなかったらもっと暴れてやる」  こんな反応をするから、相手するのが面倒くさくなってきてしまった。  そう言えば、私の自己紹介が遅れてしまった。  私は「シオン」このまっさらな世界を旅している。今までの記憶がほとんどなかった。気がついていた時に持っていた、このキャリーケース。その中にはノートが入っていて、そこには私の名前と、“ オモイ”を“ 想い”に変えろと。今の私にはそれしかすることが手がかりしかないため、それを行う為に旅をしている。暑さや寒さ等の概念はこの世界にいて今まで感じたことはないため動きやすさを重視し、ホットパンツと半袖のシャツ、そして袖の破れた防弾チョッキを着ている。防弾チョッキは何かあった時の為と個人的にオシャレだと思ったから。髪も動きやすさを求めかつ個性を出したいためポニーテールに結っている。首にはゴーグルをしていて、このゴーグルは必要でこのゴーグルがないと私の使命が全う出来ないのだ。そして手にはキャリーケースを持ち、引きずりながら歩いている。  そしてこのスティマという生き物。獏に似ていて手で抱えられるくらいのサイズ感のある生物だ。めちゃくちゃ喋る。うるさいくらいに喋る。私が旅を初めてすぐに拾った。  スティマ自体にも目的があるらしく、本人曰く「俺は“想い”を食べるために生まれてきた。なんで生まれてきたかは知らんがな!」と。この生き物も記憶がないらしい。ただ、こうも言う。 「“想い”を食べ続けていけばもしかしたら記憶が戻るかもしれない」  と。  私も“オモイ”を“想い”に変える、そして記憶を取り戻す。それが目的。  スティマは“想い”を食べて記憶を取り戻す。そうすることで私の旅にも理由が出来る。スティマとの利害が一致していたので一緒に旅することになった。  スティマとあーだこーだの掛け合いをしているうちに突然、 「うわっ!?」  目の前が霞んで、辺り一体を埋め尽くすくらいの靄に覆われる。目の前が見えない中、手探りで靄の中を進んでいくと、そこには街が現れた。西洋風の街並みが目の前に立ち並ぶ。 「おいおいー!ほんと現れたぜ!イェーイ!!」  スティマは短い手をパタパタさせて喜ぶ。だが、 「ちょ、頭痛いから手をパタパタするな……動くな……」  とりあえず、スティマを大人しくさせてから街を歩き始める。白を基調とした街でどこの家にもベランダには花を育てていて、華やかで綺麗という言葉に尽きる。ただ、街には人が見当たらないのだ。この理由は長く旅をしてきたので察しはつくが……。  そう思いつつも街の景色に圧倒されながら歩いていると、1人の女性に声をかけられた。 「そこのお姉さん、旅をされてる方でしょうか?」  少し背の小さく整った顔をしているエプロンを身につけたショートボブの髪型をしたお姉さんが突然話しかけてきた。 「そ、そうですが……。なぜ分かったんです?」 「そのカジュアルな格好してれば分かりますよ。あの突然ではありますが、今夜泊まる場所は決めていますか?」 「決まってねぇよー、だから探してんだー!」  頭の上のスティマが話に割り込んできた。動物が喋ると相手が困惑するからなるべく話すなって前から言っておいたのに……。 「あ、あらこの動物さんは言葉を喋るんですね……」  案の定の展開だ。全く。後でまたキツく言っておかなければ。 「えぇ、泊まれる所を探しているのは事実です。何か当てがあるんでしょうか?」  そう答えると彼女は少しウキウキしながら手を叩き、 「えぇ!ちょうど私、宿と食堂を経営してましてもし良かったらうちにどうかなと!」  これは願ったり叶ったりだ。泊まる所を探すのは毎回苦労するからこれは助かる! 「こちらとしても泊めて頂けれるならありがたいのですが……急に泊まってしまっても大丈夫なのでしょうか?」 「えぇ!今は宿泊予定のお客様もいらっしゃいませんし、私は構いませんがどうでしょうか?」 「なぁーなぁー、泊まろうぜー!せっかくこうやって言ってもらってるんだしよぉー!」  スティマがわーわー喚いていて頭に響くが、こうして言ってもらってるんだ。お言葉に甘えて泊めさせて貰おう。 「それでは、今日はそちらへ泊めさせて頂こうと思います。本日はよろしくお願いします。」 「了解しました。では私についてきてください!」  そうして彼女は歩いていくので、私はその後ろに着いていくことにした。歩いてから5分ほどで彼女の足が止まった。 「ここが私の経営する宿になります!」  目の当たりにするとこの街の中では外見豪華である。極端にここの宿だけ大きいわけではなく2階までしかないのもあり街の風景を壊さないよう白を基調としたデザインをしていてとても好印象だ。 「ココ最近、お客様どころか外歩いても人を1人も見ないものでとても心配でしたが……貴方が来てくれてとても喜ばしい限りです!早速ご飯お作りしますね!」  そう言いながら、宿へ入り彼女はウキウキでご飯を作り始めている。外に取り残された私たち。 「おいおい、シオン。あの姉ちゃん気づいてないみたいだな。」 「そりゃあ、そうだよ。気づくわけがない。」  人が居ないというのにはカラクリがある。ご飯まではある程度時間かかりそうだから少し外でも歩こうか。荷物を置ければそれで良かった。宿屋の彼女に声をかける。 「すみません、ちょっとご飯までには戻ってくるので外へ歩いてきてもいいですか?」 「ええ、どうぞ!こちらももう少し時間かかると思いますので!」 「そういえば、お聞きするのを忘れてました。お名前はなんというんですか?」 「私の名前ですか?こちらも申し遅れてすみません……。ヴェルデと言います。よろしくお願いします!」 「ヴェルデさんですね!では荷物とご飯よろしくお願いします!」  彼女にそう伝え、スティマを連れて外へ散歩兼探索へと向かう。  この街を隅々まで探索する。私たち2人は、そこで何点かの疑問点に気づく。やはりとても真っ白なとても綺麗な街並み。ただ1人も人を見かけることがない。それはそうなのだ。ここはヴェルデさんが思う“世界の形”なのだから。 「まぁ、案の定って奴だな。ただ、今までの“オモイ”とは桁が違うぞこれ。」 「私もそれは思った。質というか重さが今までと桁が違うわこれは。」  ここまで街が鮮明に形作られている時点で疑問を少し抱いていたが、外へ出て触れて改めて分かった。これは今までの“オモイ”とは異質だ。  今までのこうして作られた世界はシミようなものだった。ほんとに小規模の“オモイ”の形をしただけのものだった。だから解決も即座に終わるものだった。しかし今回は少し違う。これだけ鮮明に街が形としてなっているパターンはかなり長い間旅をしてきて初めて遭遇するパターンだ。 「彼女自身気づいてないみたいだ、この街には彼女以外居ないことに。」 「あぁ、この“オモイ”の元凶はあのヴェルデって姉ちゃんで間違いないな。でどうすんだ?って聞いたところで俺たちがやることは1つか。」 「“オモイ”を“想い”を昇華させる。それしかこの世界に縛られた彼女は救えないでしょ。」 「だよな。やるだけやってやるかー!ただ毎回やる儀式への手順はシオンに任せた!俺はケモノだからなそういうの無理。」 「そこは分かってるから気にしないでよ。」  スティマの仕事自体は別にあるため、その仕事まで持っていくのが私の仕事である。 「さて、宿屋に戻るとしましょうか。大分前からご飯というものにありつけてなかったし。」 「うぇーい!メシ!メシ!俺は楽しみだゾ!」  私たちは宿屋に戻ることにした。宿屋に近づく度に鼻にとてもいい匂いが入ってくるではないか。ただでお腹が空いていたのに尚更この匂いでお腹が空いてきた。早くお腹を満たしたいと思い、少し早歩きで宿屋に向かい辿り着き宿屋の扉を開く。そうすると、机にはめいっぱいに料理が敷き詰められていた。 「お2人おかえりなさい!他人が泊まるなんて久しぶりだったもので作りすぎてしまいました……!!」 「うわあああ!!食いもんいっぱいだゾ!!」  歩くのが嫌いなスティマは再度人の頭の上に乗っており、そこで手をパタパタさせながら猛烈に喜んでいる。 「こんなに料理を……!ヴェルデさん、すみません!ありがとうございます!」 「気にしないでください!私が勝手にした事ですので……。」  彼女は照れくさそうに俯く。  ほんとに人に会えた事が嬉しかったのだろう。この光景を見れば納得する。 その中でも果実の香りが強い料理あり、それにに目が行く。 「これなんですか?」 「これですか?鶏のオリーブ煮と言いまして私のお気に入りの料理なんです」 「そうなんですか!?とっても美味しそうですね!!でも、頂く前に手を洗ってくるので少し待っていてください。」 「はい!お待ちしております!」  私とスティマはそのまま洗い場へ行き、手を洗い食事の準備は完了した。食堂に戻り、椅子に座る。 「「いただきます!」」 「いただくのだー!」  みんなでご飯を食べはじめる。各々が好きな料理に手を出し、様々な会話が弾みこの時間を堪能した。スティマは料理を食べるのがあまり得意ではないためそこら中にこぼしていたりしたが。 「「ごちそうさまでした!」」 「ごちそうさまなのだー!」  食事を終え、スティマは相変わらず私の頭の上に乗り、私はそんなことを気にせずヴェルデさんと食器の片付けに入る。その作業中、今回の本題となる話を彼女に振ってみることにした。 「ヴェルデさんの周りでは、何か不思議な事ってありませんでしたか?」 「私の周りですか……。そうですね、先程も言いましたが何故か突然街の人たちがいなくなったんです。」 「それっていつ頃か分かります?」 「それがいつのまにかいなくなってたんです。毎日みんな朝起きて活動を始めるじゃないですか?その気配が全くしなくて、気づいた時にはもうみんないなくなっていて……。」 「だから、私たちが久しぶりの人達だって喜んでたんですね。」 「そうなんです。だからほんと嬉しくて……。」  きっと寂しかっただろう。独りと1人は全く違う。私もこんなやんちゃでワガママなスティマだけれど、この子に会うまで独りだったからその気持ちは十分にわかる。 「なるほど。そうしたら1人になったのは突然って事ですね。」 「はい。でもこんなこと聞いてどうするんですか?」 「あっ、ちょっと気になったもので。人が1人もいないのは流石に不思議じゃないですか?なので。」  警戒されるのはマズイ。この先ヴェルデさんに対して上手くいかなくなってしまう為なんとか話を誤魔化す。 「確かにそうですよね。早く街のみんな戻ってこないかな……。」  私たちは食器の片付けを終え、それぞれの部屋に戻る。私とスティマは会議を行っていた。 「ヴェルデさん、困ってたね。」 「そりゃ、当事者からしたらここは不思議だと思うからな。仕方ねぇぜ。」 「そしたら救ってあげないとだね。やっぱり。」 「当たり前だ、それがオレたちの目的なんだからよ。」 「明日から部屋に籠って、儀式の準備を始めよう。手伝えることはいつも通りでよろしく。」 「しゃーねぇなぁー、任せろ!」  私は自分の泊まっている部屋から出て、ヴェルデさんの部屋の扉をノックした。 「すみません、ヴェルデさーん?」  パタパタと音をさせながら、彼女は扉から顔を覗かせた。 「はい!どうかしましたか!?」 「私たち、ちょっと事情がありまして当分部屋から出れそうにないのでそちらの報告をしたいと思いまして……。」  彼女は少し残念そうにしながらも、柔らかな笑顔をして 「分かりました!そうしたらご飯等はドアのそばに置いておきますね!」 「そうしてくれると助かります!ありがとうございます!」  話が早くてかなり助かる。あと準備していたら飯なんて頭の中から抜けてしまって平気で3日程食べないことがザラである。 「では、私戻りますね。」 「はい!おやすみなさいシオンさん!」  私は部屋に戻り、早速“儀式 ”の準備を始める。  キャリーケースには“ 儀式”の道具が入っていた。それを引っ張り出しスティマと協力して準備を行う。こうなると時間が過ぎるのが早い。  失敗も出来ないので、予行練習もしっかり行って。  そして、2日後。私は部屋から出れないのでスティマにヴェルデさんを呼んでくるようにお願いする。「しょうがない」なんて言いつつも行ってくれるからこういう時は助かる。 「おい、連れてきたゾー!」 「ありがとう、スティマ助かるよ。」  部屋の床には、紋が幾重にも描かれていた。これは私がこの2日間で書いたものだ。 「シオンさんは、とても綺麗な服を着ていらっしゃいますね……。」  相手も驚くだろう。今まで服装に統一性もクソもない服を着てた人間が白装束に身を包み、ポニーテールだった髪が今は髪の上部に2つの輪を結っているのだから。初めて見る人には毎回びっくりされる。 「これから何かされるんですか?シオンさん。」 「これからですか?これから“儀式”を行います。」 「“儀式”ですか?なんの儀式ですか?」 「とりあえずヴェルデさんは紋の真ん中に座ってください。」 「は、はい。分かりました。」  彼女は状況を理解してないが、指示通りに動いてくれた。紋の中心に正座で座ってくれた。これで準備は完璧。 「それではこれから始めます。ヴェルデさんは目を閉じて、あなたが心の底から思っていることを考えてください。」 「はい、分かりました。」  私は紋に両手を当てると、紋が光り出す。  そうすると、彼女の周りは半球体の空間が現れ閉じ込められた。 「ふぅー、とりあえず最初の段階を突破したね。」 「おつー、でもここからがオレたちの本番だぜシオン。」 「分かってるよ、任せて。」  私はキャリーケースに入っていた中刀を取り出し、首に掛けていたゴーグルを着け戦闘態勢へ。  目の前には、黒く淀んだ“オモイ”の具現化体。今回は人型が溢れていた。 「楽しくなってきたな!シオン!」 「私は戦闘不向きだけどね!頼むよ、主力アタッカーさん!」 「おうともさ!」  半球体の空間に閉じ込められたヴェルデは対面する。そこには彼女の記憶の底に閉じ込められた“オモイ”で作られた1人の男性が立っていた。
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