あの言葉

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「またこちら側にくるという話は(まこと)だろうね?」 「ええ、近々……」  即座に返してきたが沙代は嘘が下手だ。彼女の()(たら)()はいともたやすく見抜くことができる。 「もう……」  思わず言葉に詰まった。言い直して続けた。 「……もうこちら側にこないのか?」 「いいえ、近々きますよ」  沙代はそう言ったが、嘘に違いなかった。  さっき沙代が口にした言葉が耳の奥によみがえる。  ――ああ、そうだ。筍のお礼を(あま)()さんに伝えておいてくださいね。 「またここにやってくるのだろう? だったら、筍のお礼は君が直接天津さんに言えばいいじゃないか」  沙代は私を見つめたまま黙っている。その沈黙はもうここに現れないという証拠に違いなかった。 「どうしてだ?」  思わず語気が荒くなる。 「閻魔さまの許可が出なかったのか?」  私は堪らず縁側から庭に飛びおりて、その勢いのまま沙代を抱き締めた。  沙代は私の背中に両腕をまわして優しくさすった。よしよし――。 「せっかくまた君に会えたんだ。いかないでくれ」 「ご安心を。閻魔さまの許可は出ていますので、またこちらに寄らせてもらいますよ」 「出鱈目だ。君の嘘はすぐに見抜ける」 「いいえ、嘘ではありません。私を必要としてくれるのであれば、私は何度でもあなたに会いにきます。でも、あなたの選択はとてもいいことなのです。ためらってはいけません」 「どういう意味だ?」 「しっかり生きてくださいということです。それがちゃんとできたら、いつか頭をぽんぽんして褒めてあげますから」  沙代がそう言い終えた直後、腕から彼女の感触が消えた。あっと思って腕の中を見てみると沙代はもういなくなっていた。筍の馬も一緒にいなくなっている。呆然となってその場に突っ立っていると、遠くで馬の(いなな)きが聞こえたような気がした。  それから(いく)(とせ)もの月日が流れた。
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