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そりゃ、ドキドキするよ
シュポシュポ、シュポシュポ。
「え!170!」
昔ながらの血圧計で血圧を測ってくれた先生が、慌て始めた。
カフとかいう、血圧を測るときに腕に巻く布のマジックテープをベリッと剥がしてから、
「いつもこんなん?」
と先生は私の眼をじっと見つめた。
「いつもはこんなんじゃないんですぅ。ホントに」
私は慌てた。
「でも脈拍も120だよ?苦しくない?」
「なんともないですぅ」
どうしよう。ちょっと喉が痛いくらいで内科を受診したら、大変なことになってきた。
「うーん。薬で下げようか」
「えっ」
「あんまり薬飲みたくない?」
「はい」
仕事が忙しくて休めないから、喉の痛みがすぐ治るように、うがい薬だけ処方してもらいたくて受診したのに。
「じゃあ一ヶ月、様子見ようか。一ヶ月、家で毎日血圧を測って、グラフに記入して。減塩もしてね。できる?」
私は何度も頷いた。
「それ、白衣性高血圧じゃない?」
看護師になるために看護科に進学した高校生の娘が、軽い感じで言った。
「家ではリラックスしているから血圧を測っても高くならないんだけど、病院だと緊張してしまって、血圧が高くなるっていう症状。医者が白衣を着ていて、無意識に威圧感を感じるところからついた名前なんだけど」
スラスラと説明する娘が頼もしい。もう大人なんだ、と思ったら、私は気が緩み、本音をポロッと口に出してしまった。
「白衣姿が素敵な場合でも、白衣性、ってことになるよね……」
「ん?」
娘が首をかしげた。
「白衣姿が素敵な、白衣性高血圧?習ってない……」
私は診察室での短い時間を、何度も何度も回想して、一日を過ごした。
シュッとした、いわゆる、塩顔イケメン。おそらく細マッチョ。白衣姿が凛々しくて、でもはにかんだ笑顔が優しくて……。
先生の診察机に腕を置いて、カフを巻くとき、先生との距離が近かった。
「すごくドキドキした~。お母さん、キュンキュンしたの、何十年ぶりかなあ」
娘はふうっとため息をつくと
「次も絶対高血圧だな」
と、諦めたように呟いた。
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