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あれから随分と時間を経たが、彼は私の期待通りに一躍時の人となった。
彼は裏切らなかった。
私を。
そして、何より自身の可能性を。
チクタク チクタク おじいさんと一緒に――。
思い起こされる一期一会のあの夜。
彼の歌声を遠く聞くたびに、ああ、なんら変わらないなと思う。
私のとった年の数だけ彼も年月を経て、今やあの頃の私と彼は並んだ。
それでも変わらない歌声であることに、私は心震わせる。
老いを知る者ほど、それが奇跡の技だと知るからだ。
眩いスポットライトの下に彼が立つ度に、私は奇跡を信じて胸を高鳴らせてしまうのだった。
fin.
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