蕗の薹、陰に咲く。

「辛い…短い人生を…」

校長先生も涙を拭(ぬぐ)わなかった。

「親父…この鈴子の祖父やけど
　その親父に、
　『法に携わる限り、
　　“絹の布団に寝る者には
　　　床しか寝床のない者の
　　　気持ちは解らん”　　　
　　ということを、肝に銘じろ』
　いつも言われてる。
　でも…銘じているつもり
　ばかりの事件を目の当たりや。
　ほんの少しの躓き、職や健康を
　損なうことで沸騰した湯みたいに
　難儀が湧いて出てきて
　にっちもさっちもいかんように…。
　そうならんように、国には
　いろんな補助がある、扶助がある。
　でもそれを教えてくれるトコは
　少ない…なんでやろなあ、
　どこかで情報が立ち消える。
　私立学校もしかり、急な困窮に
　救いの手はあるんや」

松堂さんの言葉に

「掲示板に奨学金の申込みが
　あるのは知っています、でも」

ワッコが言いかけて

唇を噛んだ。

「言い出し難いなあ、
　こんな華美な子の
　多いトコでは…。
　子供にだって、いや、
　子供だからこそ、見栄も
　羞恥もあるんや」

松堂さんの言葉に

ワッコは初めて大声で泣いた。